解説:「丈右衛門だった男」=矢野聖人 戦隊経て、5年ぶり大河「べらぼう」で十分な“爪痕”残す

大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」の「丈右衛門だった男」として注目を集めた矢野聖人さん (C)NHK
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大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」の「丈右衛門だった男」として注目を集めた矢野聖人さん (C)NHK

 横浜流星さん主演のNHK大河ドラマべらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(総合、日曜午後8時ほか)の「丈右衛門だった男」として注目を集めた矢野聖人さん。丈右衛門だった男は、すべての富と権力を得ようとする一橋治済(生田斗真さん)の手の者で、騒動を巻き起こすだけではなく、時に人の命を奪うこともいとわない実行犯としての活躍が描かれてきた。矢野さん自身は2020年の「麒麟(きりん)がくる」に続く、5年ぶりの大河ドラマ出演。前回よりも出番は増え、十分な“爪痕”を残したといえるのではないだろうか。

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 ◇5年前の初大河「麒麟がくる」では、本木“道三”に毒殺され

 矢野さんは1991年12月16日生まれ、東京都出身の33歳。2010年、ホリプロ50周年事業「身毒丸オーディション」でグランプリを獲得して以降、舞台、ドラマ、映画に数多く出演してきた。

 大河ドラマ出演は「麒麟がくる」が初。第2回「道三の罠(わな)」で、土岐頼純を演じた。

 土岐頼純は帰蝶(川口春奈さん)の最初の夫で、美濃の守護。尾張の織田信秀(高橋克典さん)と裏で通じていたことが発覚し、義理の父である斎藤道三(本木雅弘さん)に茶に毒を盛られ、命を落とした。

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 頼純が毒にもがき苦しみ、絶命する瞬間まで、表情一つ変えず朗々と歌を歌い上げる道三の姿が当時、話題に。道三役の本木さんの出演作になぞらえ「伊右衛門毒殺でおくりびと」とのパワーワードが誕生と、実にインパクトのある放送回で、“あのとき道三に毒殺された頼純”として、矢野さんの顔と名前を記憶している大河ファンも少なくはないはずだ。

 ◇ファンを大いに喜ばせた「キングオージャー」のラクレス

 そんな「麒麟がくる」から「べらぼう」の間の5年間の矢野さんを語る上で、忘れてはならないのが、2023〜24年に放送されたスーパー戦隊シリーズ「王様戦隊キングオージャー」だ。同作で、主人公のクワガタオージャー/ギラ(酒井大成さん)の兄、オオクワガタオージャー/ラクレス・ハスティーを演じた。

 王様たちが戦士となって、“チキュー”を脅かす敵と戦う姿を描いた「キングオージャー」において、矢野さんが演じたラクレスは、序盤は“邪知暴虐の王”として王様たちの前にたちはだかるも、終盤になってそれは真の敵・宇蟲王ダグデドを欺くための芝居だったことが明らかに。第41話「宇宙を救う時」でのダグデドへの“反逆”では、ファンを大いに喜ばせた。

 最終回後の2024年3月、写真集「TONE」(東京ニュース通信社)の発売に合わせて行われたインタビューで矢野さんは「この1年(撮影期間)の中に、僕の役者としての思想をだいぶ盛り込めました。今まで培ってきた技術も出すことができましたし、アクションにも挑戦できた。ラクレスの復活後は、あえて体重を増やすことなど、自分の意見をかなり採用してもらえたこともうれしかったです。(キングオージャーは)今後俳優をやっていく中でも一番思い出に残る作品だと思います」と思い入れの強さを語っていた。

 ◇「べらぼう」では治済の意のままに暗躍 犠牲者も次々

 「キングオージャー」を経て、5年ぶりの大河ドラマとなった「べらぼう」には、第16回「さらば源内、見立は蓬莱」から登場。役名はこの時点では「丈右衛門」だった。平賀源内(安田顕さん)に偽りの普請を頼んで近づくと、その源内に「人を斬った」という罪をかぶせ、源内がのちに獄死するきっかけを作った。

 この「丈右衛門」という名は偽りで、再登場回の第27回「願わくば花の下にて春死なん」以降は、矢野さんの役名も「丈右衛門だった男」へと変化。同回では、真偽が入り混じった田沼の話を佐野政言(矢本悠馬さん)に吹き込み、意知(宮沢氷魚さん)に斬りかかるという“凶行”を誘発。このときの傷が原因で意知は命を落とし、政言も切腹してこの世を去った。

 その後も「丈右衛門だった男」は、大工姿で意知の葬列に石を投げたり、浪人姿で政言を“ヒーロー”に仕立てる幟を立てたり(第28回『佐野世直大明神』)、米騒動では幕府の役人の「犬を食え」発言(本当は言ってはない)を大声で周囲に広めたり(第32回『新之助の義』)、“天になりたい男”治済の意のままに暗躍した。

 直近放送の第33回「打壊演太女功徳(うちこわしえんためのくどく)」では、蔦重(横浜さん)の命を狙ったところ、長谷川平蔵(中村隼人さん)に胸を射抜かれ、あっさり絶命。一方でこの騒ぎの中、蔦重をかばった新之助(井之脇海さん)が、源内、久五郎、意知、政言に続いて、「丈右衛門だった男」絡みの新たな犠牲者となり、視聴者の涙を誘った。

 一部視聴者から「本当に死んだの?」との声も上がっている「丈右衛門だった男」。これで退場確定なら矢野さんは「丈右衛門だった男」だった男(過去形)となるが、果たして……。それはさておき、登場回のSNSでの盛り上がりなどを考えれば、同役は矢野さんの新たな代表作の一つになったと言えるのではないだろうか。

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