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放送も残すところあと3回となった横浜流星さん主演のNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(総合、日曜午後8時ほか)。11月23日放送の第45回「その名は写楽」では、戯作者や絵師、狂歌師らが集まり、“写楽が生まれる様子”が描かれた。「べらぼう」らしいシーンであり、過去にもあったこの手の集まりに、欠かさず加わってきたのが北尾重政だ。演じてきたのは橋本淳さん。出番こそ限定的であったものの、重政先生と橋本さんは、「べらぼう」の物語を支え続けてきた、功労者の一人と言えるのではないだろうか。
橋本さんが「べらぼう」に初登場したのは、第3回「千客万来『一目千本』」(1月19日放送)と、かなり早い段階。演じる北尾重政は、本屋の息子として生まれ、本に囲まれた環境に育ち、絵師としての才能を開花。門人も多く、喜多川歌麿を弟子のように育てたともいわれる。
「美人画」「役者絵」の絵師として人気を誇る一方で、版本挿絵の仕事も晩年まで続け、蔦重の出版物の多くに関わったとされる重政。劇中では、蔦重(横浜さん)と接する際のどこかさっぱりとしていて粋な感じ、駆け出しだった頃の歌麿(染谷将太さん)に向けられた優しいまなざしも印象的で、見る側からも、常に“良心のような存在”であった気がする。
そういった重政の個性を、随所で体現してきた橋本さん。時間をさかのぼれば、20年前は、スーパー戦隊シリーズ「魔法戦隊マジレンジャー」のマジレッド/小津魁役として活躍。同作は当時18歳の橋本さんにとって初主演作で、「マジレンジャー」のテレビ放送終了翌年の2007年にはNHKの連続テレビ小説(朝ドラ)「ちりとてちん」にも出演し、以降、多くの作品を重ねてきた。
その俳優キャリアにおいて、豊富な舞台経験も橋本さんの特徴。今秋上演された加藤拓也さん作・演出の「ここが海」に合わせて話を聞いた際、「伝わることの強さ、持ち帰るものが多さは演劇の良さ」だといい、「まるで自分ごとのように経験して帰っていくので影響力は大きいですし、その影響力の半面、演じる側に立ったときは覚悟と矜持をちゃんと持たないといけない。それがないと“板の上”に立つ資格はないと思っているので、そこは忘れないようにしたい」とも語っていた橋本さんだが、そんな真摯な姿勢は、映像作品においても変わらず。だからこそ「べらぼう」の重政も、懐の深さと包容力のあるキャラクターとなったのであろう。
直近放送の第45回「その名は写楽」では、重政が無理を言う蔦重に対して、珍しく声を荒らげるシーンもあったが、諍いというよりは弟子らを思っての“愛ある叱責”に近く、そこには橋本さんが重政として積み上げてきた優しさがあった。残り3回のドラマでどれほどの出番があるかは分からないが、「べらぼう」の重政役はファンの心にしっかりと刻み込まれたはずだ。