緊急取調室 (2025)
第7話 赤い殺意
12月4日(木)放送分
今田美桜さん主演のNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「あんぱん」(総合、月~土曜午前8時ほか)の第119回(9月11日放送)で、視聴者を最も引き付けた場面はどこだったのか? テレビの前の視聴者が画面にクギヅケになっていた程度を示す「注目度」(REVISIO社調べ、関東地区、速報値)の1分ごとの推移を調べたところ、高知新報時代の上司・東海林(津田健次郎さん)がのぶ(今田さん)に、嵩(北村匠海さん)に語りかける言葉にしびれた胸アツ回となった第119回で最も注目度が高まったのは午前8時14分の69.8%だった。午前8時6分と9分も69%台に乗せ、3度もピークを作る見どころが多い回となった。
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「あんぱん」は、「アンパンマン」を生み出したマンガ家で絵本作家のやなせさん(1919年~2013年)と、暢さん(1918年~1993年)夫婦がモデル。何者でもなかった2人があらゆる荒波を乗り越え、“逆転しない正義”を体現した「アンパンマン」にたどりつくまでを描く、生きる喜びが全身から湧いてくるような「愛と勇気の物語」だ。
第119回は、柳井家を突然訪ねてやって来た東海林(津田健次郎さん)が“主役”の回。東海林はのぶ(今田さん)に、嵩(北村匠海さん)の活躍をうれしそうに話し、「アンパンマン」のこれからの展開に悩む2人の背中をそっと押す。
テレビ画面の前にいる人のうち、画面を実際に注視している人の割合を示す「注目度」は、ピークが70%の壁こそ突破できなかったものの、まずまずの69%台を3回も記録。最初から最後まで、グラフが激しく乱高下する非常に忙しい回だった。
ドラマは冒頭から東海林の来訪からスタート。オープニングの時間帯は注目度がやや下がるものの、午前8時2分の58.7%を底に急激に伸び始める。
「俺はあの頃から、あいつのずば抜けた才能、こうちょったぞ」「けど、記者としてはずば抜けてポンコツやったけどな」。東海林がそんなふうに昔を振り返り、のぶと笑い合う午前8時4分に一時67.5%に達し、続いて午前8時6分で最初のピーク69.1%を記録する。
この日は、東海林が訪ねてきた柳井家でのシーンが続き、午前8時6分台はほぼ唯一の柳井家以外のシーン。八木(妻夫木聡さん)の会社で、嵩が投稿雑誌「詩とメルヘン」の編集作業をしている場面だ。「アンパンマン」には何かが足りない。そう考える嵩は、休憩時に蘭子(河合優実さん)や八木に、そうした悩みを打ち明ける。
さまざまな意見が出る中、「かっこよくなっても、強くなってもいけないんです、アンパンマンは」という嵩。嵩のことを理解する八木が「かっこいい正義の味方は一番信用できないか」とぽつりとつぶやくのが印象的。アンパンマンにこめた嵩の思いがよく伝わる場面だった。実は、このテーマはこの後の場面に続いていく。
次のピークは午前8時9分の69.7%。のぶが上京してまもない貧乏をしていた時代の思い出話を東海林に語る、直前の午前8時8分台は63.6%まで落ち込んだが、一気に跳ね上がった。ちょうど2人の会話が「アンパンマン」の話題に移ったあたりだ。
「けんど一つ、ふに落ちん作品がある」と「アンパンマン」について話し始めた東海林。「好きや嫌いやのうて、いっぺん見たら気になってたまらんがよ」と語る。「あのおんちゃんは、どうしてわるもんを倒さんがな? どうしてかっこよー空を飛ばん? どうしてボロボロのマントを着ーちゅう?」と質問を続けると、少し間をおいて「どうして柳井はあれを書いたがや?」と尋ねた。
この辺までが9分台。ここでも、アンパンマンは「なぜかっこ悪いか?」が話の話題に上がった。東海林の語りが長いシーンだが、ツダケンさんの声と演技ですーっと心に言葉の一つ一つが届けられたような場面だった。
この後、東海林の質問に、のぶは「強さを見せつけて敵を倒すがではなく、自分を顧みず、弱い人や困っちゅう人を救うがが、真のヒーローではないかなと思うがです。やき、アンパンマンはかっこ悪くてえい。弱くてえい。マントもボロボロでえい。アンパンマンは嵩さんにとって唯一信じられる正義の味方ながです」と答える。
それを聞いた東海林は「やっと見つけたにゃ。高知新報の面接の時に言いよった、あれや」と、入社試験でのぶと嵩が語っていた「逆転しない正義」を思い出し、「それを何十年かかけて……やっと見つけた。そうやにゃ?」と問いかける。
この辺は「あんぱん」のテーマの一つでもある「逆転しない正義」の話なのだが、注目度はあまり高くない。
最後、3回目のピークはドラマ最終盤の午前8時14分の69.8%。この日、第119回の最高値となった。
直前の午前8時13分台に八木の会社から急ぎ戻ってきた嵩が、東海林の前に座る。13分台の後半、のぶと嵩を前に、東海林が2人に「逆転しない正義」について語り始める。まるで“遺言”のように。長い東海林のシーンでも、ここからが一番の見せ場だ。
「おまんらあは、ついに見つけたにゃ。逆転せんもんを」。そして嵩に「もっと、こじゃ~んと、あのおんちゃんを描け」と言うと、のぶには「こじゃ~んと応援せえ」と伝える。この辺でちょうど午前8時14分台に突入した。
「おまんらあが長い時間かけて見つけたもんは、間違っちゃあせん。俺が責任を持つ」。その言葉を涙を浮かべ聞いていたのぶが「はい」と答えるのが印象的。新聞社時代の仕事ぶりでキャラクターが出来上がっている上、ツダケンさんの演技が加わるからこそ、視聴者にも納得感が生まれたのだろう。しばらく「俺が責任を持つ」の言葉が頭の中をリフレインしたくらい、印象に残ったシーンだった。
第119回はほぼ、のぶと東海林の2人のシーンがほとんどの特殊な回。注目度は多少、乱高下したものの、ここぞの場面ではきちんと視聴者の視線を奪った、さすがツダケンさんの演技だった。
活用したデータは、関東の2000世帯、関西の600世帯で番組やCMの視聴状況を調査しているREVISIO社が公表している独自指標の「注目度」。人体認識センサーを搭載した専用機器でテレビ画面に視線を向けているかを常に計測し、テレビの前にいる人のうち、番組を注視していた人の割合を算出している。(文・佐々本浩材/MANTAN)
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