伊藤淳史:山本美月と映画「ボクは坊さん。」を語る 「僧侶を身近な存在と感じてもらえる作品」

映画「ボクは坊さん。」について語った伊藤淳史さん(右)と山本美月さん
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映画「ボクは坊さん。」について語った伊藤淳史さん(右)と山本美月さん

 俳優の伊藤淳史さんの主演映画「ボクは坊さん。」(真壁幸紀監督)が全国で公開中だ。コピーライターの糸井重里さんが主宰するサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」に連載された僧侶・白川密成さんのエッセーを基に、祖父の死をきっかけに実家の寺で住職を務めることになった青年が奮闘する姿を描いている。主人公の白方進(光円)を演じる伊藤さんと、進の幼なじみである越智京子を演じる山本美月さんに、役作りや現場の様子、僧侶のイメージなど話を聞いた。

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 ◇僧侶役には“特別感”が強かった

 僧侶役のオファーを受けた際、「お坊さんは特殊なイメージというか特別な存在だったので、いろんな役をやらせてもらう中でも特別感というのは今までの中でも大きい方だった」と伊藤さんは感じ、「詳しく内容を聞く前にお坊さん役ということだけを聞いていて少し不安はありましたが、台本を読むとお坊さんの仕事ぶりも描かれていますが、日常の様子も描かれた人間ドラマになっていたので、安心してお芝居を楽しめました」と振り返る。

 僧侶という職業について、伊藤さんは「お坊さんというとお葬式などでお世話になったり、お会いするという感じが強く、特別な時という感じはありました」とイメージを語ると、中学、高校と仏教の学校に通っていたという山本さんは、「考えてみれば身近だったとは思いますが、どうしても自分には知らない神仏や手の届かない存在を分かって生きている、高貴で神聖なイメージがありました」と自身の経験を踏まえて話す。

 今作を通してそういった印象が変わったかと聞くと、「私たちと変わらない、家庭もあって友達もいてという一人の人間ということは感じました」と山本さんが話すと、伊藤さんも「本当にそう」と同意する。そして、「お坊さんも一人の人間で、そこには日常があって、喜びがあったり悲しみがあったり苦しみがあったりというところに人間としての魅力だったり、お坊さんとしての魅力というのがたっぷり詰まっている気がしました」と語る。

 ◇坊主姿の自分には違和感を感じなかった

 今作で伊藤さんは24歳にして突然、住職となった光円を演じている。自身の坊主姿を見た際、「最初に見たときから、違和感はなかった」と振り返り、「意外と、そんなに悪くないと思った」といって笑う。さらに「周りの人も『頭の形がいい』とかいろいろいってくれて、だんだん調子に乗ってしまいました(笑い)」とちゃめっ気たっぷりに語り、「美月ちゃんも(頭を)ポンポンという感じで『いいね』と」と明かす。

 だが、「本当に(いいと)思っているのかなと(笑い)」と伊藤さんが冗談めかして疑いの目を向けると、「お坊さん役をやるべくして生まれてきたような感じでした」と山本さんは絶賛。そして「(伊藤さんとの)初対面がお坊さんの姿だったので、逆に髪が生えているほうが違和感があります」と楽しそうに笑う。

 僧侶役の伊藤さんは、所作や読経などが役作りには欠かせなかったが、「すごく難しかった」と実感を込める。「お坊さん以外の方が見た場合、何かが違ったとしても気付かないと思いますが、お坊さんが見てくださったときに、『ちょっと違うのでは?』と思われることほど悲しいことはない」と伊藤さんは役に向かう心構えを語り、「そのあたりは(原作者の)密成さんに厳しく見ていただけましたから、現場ではお芝居的にオーケーだけどお坊さん的にNGのようにダブルチェックでした」と振り返る。そして、「密成さんに徹底的に(チェックを)やっていただいてよかったと思います」と感謝する。

 ◇実年齢7歳差の2人が同級生で幼なじみ役

 一方、山本さんが演じるのは、伊藤さん演じる進(光円)と溝端淳平さん演じる桧垣真治の2人と幼なじみ・京子という役どころ。「結婚や出産など、私自身が経験したことがないことばかりで、どう(役を)作っていったらいいか分からない面が多かった」と悩んだそうだが、現場に入ってからは「一番大事なのは進や真治との3人の関係性」だと確信したという。

 幼なじみ役ではあるが、伊藤さんと溝端さんの2人は山本さんよりも先輩ということもあり、「すごく気を使うかなと思っていたのですが、2人ともとても接しやすい雰囲気で、幼なじみという空気感を作るのにも苦労せず、すんなり入れた」と山本さんは語り、「何気ない日常というふうに見えたのは、(伊藤さんと溝端さんの)お二人がそういうふうに接してくださったから、できたものなのかなと。助けられてばかりの作品でした」と感謝の言葉を口にする。

 山本さんの話を聞いていた伊藤さんは、「幼なじみではあるけど7歳も違う(笑い)」と年齢差を指摘し、「同級生で幼なじみ役という時点で、僕の中では大丈夫かみたいな気持ちはあった」と打ち明ける。「初めて会ってあいさつをしたとき、(山本さんは)すごく大人だなと感じたし、現場でも話したりお互いにお芝居をしていく上で、いい関係を作れると思った」と伊藤さんは直感し、「3人で話したりする時間もすごくいい時間だったので、いい関係を作れたと思います」と手応えを感じたようだ。

 京子は会社の同僚と結婚式を行うことになり、映画で山本さんは白むく姿を披露している。初めて白むくを着たという山本さんは、「白むくを着るとバランス的にはおでこを狭くしなければならないので、カツラを前にずらしたのですが、それが自分的にはすごく違和感があった」といい、「どうなんだろうと思っていたのですが、皆さんに褒めていただけたのでうれしかったです」と喜ぶ。伊藤さんも「とてもきれいでした」と評した。

 映画では実際に仏前式のシーンもあるが、「密成さんから現場で細かく丁寧に指導していただいたので、実際のものとほぼ同じ」と伊藤さんは説明し、「多少割愛している部分はありますが、間違いのない所作や流れを踏んでいて、実際の撮影では使われていない部分も撮ったりしました」という。伊藤さんが寺で結婚式を行うことを「意外でした」と語ると、山本さんは「魔法をかけているみたいで面白いと思いました」と女性らしい発想で光円の所作を表現する。

 ◇それぞれの人生の“転機”

 主人公が突然、住職になったということにちなみ、劇的に人生が変わったような出来事が今まであったかと聞くと、「このお仕事を始めたこと」と山本さん。「高校3年生のときに東京スーパーモデルコンテストというオーディションを受けて『CanCam』の専属が決まりました」とデビューの経緯を説明し、「そのときから普通の高校生がモデルになったので、かなり変わりました」と感慨深げに語る。

 一方、「劇的なことないんです」と笑顔で語る伊藤さんだが、「劇的ではないですが、仕事に対する考え方は独り身じゃなくなってから感じました」と切り出し、「生きがいとか好きだという理由だけでやっているお芝居から、生活とか生きるというのも含めた魅力に変わりました」と結婚を経て心境の変化を告白。そして、「そういうふうに考えてお仕事をすることが、階段(を上ったということ)なのかは分からないけど、ちょっと変わりました」と神妙に語る。聞いていた山本さんからは「それは劇的ですよ!」と指摘された。

 映画ではイッセー尾形さん演じる栄福寺の檀家(だんか)の長老・新居田明が、光円に対して温かくも厳しさを持って諭す場面がある。伊藤さんと山本さんの2人に悩んだときに相談する相手がいるかと聞くと、「自分は結構、内(側)に入らないタイプなので、信用している友だちには全部言っちゃいます」と山本さん。「重い悩みだったり、私は変だと思っているけどみんなはどうなんだろうと思っていることや、客観的に自分を見られなくなってしまったときなどに相談することが多い」と続け、「(人に)言った方が解決するし、気持ち的にもすっきりする。自分と同じように考えてくれている人がいるとか、自分が間違っていたのかもしれないという。主観だけで考えないで、ちゃんと俯瞰(ふかん)で見たい」とその理由を説明する。

 山本さんとは対照的に、「僕は言わないです」という伊藤さんは、「結果、正しくないかもしれないけれど、自分で決めて動かないと最終的には納得できない」と語り、「どれだけ大切な人であっても、何かをいったことで素晴らしい助言をもらったとしても、意外とそれをすっと受け入れて行動に移せなかったりするので、自分で……と思っちゃう」と自己分析する。そして、自身とは反対の行動を取れる山本さんのことを「すごい」とたたえると、山本さんも「自分で考えて決断できるのがすごい」と伊藤さんに敬意を示す。

 ◇誰しもに当てはまる物語が魅力

 今作について伊藤さんは「特別なことを大げさに描いていない作品だからこそ、皆さんも自分の日常や身近な存在を感じてもらえるような作品になっていると思う」と評し、「家族や友人はすごく大切な存在だけど当たり前のような感覚になりすぎていて、ありがたさを忘れちゃっていたりするかもしれず、そういうことを映画を見て感じてもらえたらいいと思う」と力を込める。

 進・光円という役については、「お坊さんが主役の映画ですが、誰しもが当てはまることだったりすると思う」と伊藤さんは切り出し、タイミングや選択だったりがいろいろある中で、僕自身もそうですが、どこかで自分と置き換えてもらえるだろうし、見ていただいた人がそれぞれ何かを見つけてもらえるような役になっていれば、それが作品の魅力にもなってくると思うし、(完成作が)そうなっていたらと思います」と役作りの意図を交え見どころを説明する。

 山本さんも「(京子は)進にとっての大事なものを形として表した役柄だと思うので、私の役を見て、自分の大切なものと重ね合わせて考えていただけたらと思います」とメッセージを送った。映画は全国で公開中。

 <伊藤淳史さんのプロフィル>

 1983年11月25日生まれ、千葉県出身。映画「鉄塔武蔵野線」(97年)で映画初主演を果たして以来、映画やドラマなどで幅広く活躍。おもな映画出演に「海猿」(2004年)、「西遊記」(07年)、「踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望」(12年)、「チーム・バチスタ FINAL ケルベロスの肖像」(14年)、「ビリギャル」(15年)などがある。15年11月には出演した映画「劇場版 MOZU」の公開を控える。

 <山本美月さんのプロフィル>

 1991年7月18日生まれ、福岡県出身。2009年に第1回東京スーパーモデルコンテストでグランプリを受賞。女性ファッション誌「CanCam」の専属モデルの活動とともに、映画やドラマCMなどにも出演。おもな出演映画に「桐島、部活やめるってよ」(12年)、「女子ーズ」(14年)、「東京難民」(14年)、「近キョリ恋愛」(14年)、「小野寺の弟、小野寺の姉」(14年)、「東京PRウーマン」(15年)などがある。

 (インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)

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