ザ・ウォーク:ゼメキス監督に聞く 主演のレビットが「どうしてもやらせてほしい」と綱渡りを熱望

「ザ・ウォーク」について熱く語るロバート・ゼメキス監督
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「ザ・ウォーク」について熱く語るロバート・ゼメキス監督

 1974年、完成間もない米ニューヨークにあるワールドトレードセンター(WTC)2棟の屋上の間に、1本のワイヤを張り、命綱も付けずに歩いた男がいた。そのフランス人の大道芸人フィリップ・プティさんの半生を描いた映画「ザ・ウォーク」が全国で公開中だ。メガホンをとったのは、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(85年)や「フォレスト・ガンプ/一期一会」(94年)などの作品で知られるロバート・ゼメキス監督。今から10年ほど前、プティさんについて描かれた絵本を見て、今作の構想が生まれたという。ゼメキス監督は「足元のワイヤに乗り、その下に街の眺望が広がっているイメージが浮かんだんだ」と構想した当時を振り返った。

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 ◇起こった通りに描いてほしい

 「熱い情熱を持つキャラクターがいるストーリーと、映画的スペクタクルの要素、その両方が、娯楽性に優れた映画のレシピなんだ」、そう語るゼメキス監督。プティさんのWTCでの離れ技については、「当時、私は映画を学んでいる学生で、世間から隔絶されたような生活を送っていた」ため記憶にないそうだが、前述の絵本を見て創作意欲をかき立てられ、リサーチを始めたという。

 1949年生まれのプティさんは、幼い頃からマジックやジャグリングに興味を持ち、16歳のとき初めて綱渡りを行った。その後、71年にはパリのノートルダム寺院、73年にはオーストラリア・シドニーのハーバーブリッジで曲芸を行うなど、破天荒な“アート”を実現してきた。そして、74年のWTCでのワイヤウオーク。それについては、米アカデミー賞ドキュメンタリー賞受賞作「マン・オン・ワイヤー」(2008年、ジェームズ・マーシュ監督)でも語られているが、今回、ゼメキス監督は、プティさんの、そこに至るまでの半生を描くとともに、ワイヤウオークそのものを“再現”するという“離れ技”をやってのけた。

 ゼメキス監督によると、プティさんは「ストーリーテラーとしても、人間的にも素晴らしく、自分のアートを絶対成功させるという意気込みを持つ情熱的な人物」で、今作を作る際、「ほかの部分は圧縮しても構わないが、タワー間のウオークは、すべてを起きた通りに描いてほしい」と要望したそうだ。その意向をくんで完成させた今作を、プティさんは「すごく気に入ってくれた」とゼメキス監督は顔をほころばせる。

 ◇デジタル処理から生身のワイヤウオークへ

 プティさんを演じているのは、「(500)日のサマー」(09年)や「インセプション」(10年)、「ダークナイト ライジング」(12年)などの作品で知られるジョセフ・ゴードン・レビットさんだ。レビットさんを起用した理由を、ゼメキス監督は「観客に親近感を抱かせ、物語の中の旅に引き込むことができる役者だから」と語る。レビットさん自身が、マジックやジャグリングに興味があったことも大きかった。

 しかし、だからといってゼメキス監督は、レビットさんに、ワイヤウオークを実際にやってもらおうとまでは考えていなかった。「私は、決してそれを彼にやってくれというつもりはなかった。全部デジタルで作る準備ができていた」と力を込める。ところが、レビットさん本人が、「どうしてもやらせてほしい」と熱望したのだという。

 「撮影で、実際にジョセフがワイヤの上を歩くのを見るのは本当にドキドキしたよ。12フィート(約3.6メートル)くらいの高さで、安全ワイヤをつけていたから、落ちて命を失うことはないにせよ、大けがをする危険性は十分あったからね」と当時の緊張感を思い返しながら、レビットさんの意欲と度胸をたたえる。ちなみにレビットさんは、プティさん本人から、ワイヤウオークの指導を8日にわたって受けたという。

 ◇WTCがもたらしたヒーリング効果

 「ロジャー・ラビット」(88年)ではアニメーションと実写の合成、「ポーラー・エクスプレス」(04年)では、当時の最新技術であるパフォーマンスキャプチャーを作品で取り入れるなど、常に新しい映像表現に挑戦してきたゼメキス監督。日頃から「映画製作において、そのときのテクノロジーに依存する必要はない」と考えてはいるものの、今作に限っては、テクノロジーの力は不可欠だった。なぜなら、現存しないWTCのツインタワーそのものを、コンピューターグラフィックス(CG)で100%、しかも、絶対的にリアルに作り上げる必要があったからだ。果たして、その出来映えは見事というほかなく、それによって観客は、プティさんが体験した、地上110階、高さ411メートルの“空中歩行”を体感できる。

 WTCといえば、どうしても、01年の9.11同時多発テロによる悲劇のイメージがつきまとう。ゼメキス監督自身、「残念ながら、思うことは、ほかの方々と一緒だ」と認める。その上で、「ただ、重要なのは」と居住まいを正し、「WTCといえば、その悲劇だけを思い出すのではなく、その歴史には、フィリップが成し遂げたような、とても美しく、人間的で、詩的な瞬間もあったんだ。それもまた思い出してもらうことだと思う」と指摘する。そのために「フィリップは、WTCを、あたかも人のように、自分のアートのパートナーのように語るんだ。彼の目から見たWTCを、そのまま皆さんにお見せすればいい」という姿勢で今作に臨んだことを明かし、「皆さんにもきっと、(9.11という)ダークな思い出だけではなく、美しい思い出があるはずだ。その美しい部分を、記憶の中にとどめておいていただけたら」と期待を寄せる。

 幸い、昨年公開された米国での評判は上々で、とりわけ「ニューヨーカーは、とても気に入ってくれた」とゼメキス監督は笑顔を見せる。そして、「皆さんから感謝されたり、特にWTCが“生”を受けた瞬間では、ヒーリング(癒やし)に近い感覚を抱いていただけたりしたようだよ」と誇らしげに結んだ。映画は丸の内ピカデリー(東京都千代田区)ほか全国で公開中。

 <プロフィル>

 1952年、米イリノイ州シカゴ生まれ。「抱きしめたい」(78年)で監督デビュー。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(85年)、「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2」(89年)、「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3」(90年)の大ヒットにより、ハリウッドを代表するヒットメーカーに。「フォレスト・ガンプ/一期一会」(94年)では米アカデミー賞をはじめ、ゴールデングローブ賞や全米映画監督組合の監督賞を獲得。ほかの監督作に、「Disney’s クリスマス・キャロル」(2009年)、「フライト」(12年)などがある。

 (インタビュー・文・撮影/りんたいこ)

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