今年の第88回米アカデミー賞で作品賞と脚本賞に輝いた「スポットライト 世紀のスクープ」(トム・マッカーシー監督)が、15日に公開される。カトリック教会の神父たちによる性的虐待とその隠ぺいを暴いた米国の地元紙「ボストン・グローブ」の記者たちの姿を実話に基づいて描いた社会派作品だ。今作のPRのために緊急来日し、このインタビューの直前に開かれた記者会見で、「一生に一度、巡り合えるかどうかの作品」と充実感をにじませていたレイチェル・マクアダムスさんに話を聞いた。
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タイトルの「スポットライト」は、ボストン・グローブ紙の調査報道チームによる特集記事欄の名前に由来している。ウォルター“ロビー”ロビンソン(マイケル・キートンさん)をリーダーに、マイク・レゼンデス(マーク・ラファロさん)、マット・キャロル(ブライアン・ダーシー・ジェームズさん)、そして、マクアダムスさんが演じるサーシャ・ファイファーの4人がチームのメンバーだ。彼らは、新任の編集局長マーティ・バロン(リーブ・シュレイバーさん)の指示によって、ある神父による性的虐待疑惑を追い始める。
マクアダムスさんはサーシャを演じながら、ジャーナリストと俳優の類似性を感じたという。「役者というのは、フィクションの世界で演じていると思われがちですが、(役作りとは)演じる人物や彼らの世界が持つ真実になるべく近づこうと、いろんなことを調査する作業」であり、その点において、「ジャーナリストと役者はすごく似ていると思うところがありました」と指摘する。
これまで多くの作品に出演してきたアダムスさんだが、作品選びの基準は、「その役に魅(ひ)かれることもありますが、たいていは、たった一つのシーンがどうしても頭から離れなかった時」と話す。今回の「スポットライト」の“決め手”は「ストーリー」で、「事件のことは理解しているつもりでしたが、全貌を知らなかった」ことからくる探究心とマッカーシー監督の存在も大きかった。
「マッカーシー監督は膨大(ぼうだい)なリサーチをして、この真実を敬意をもって描くことに100%熱意を注いでいました。それに、彼から言われたのです、実際の記者たちに直接アクセスできるよ、と。もしやってくれるなら、明日からサーシャと連絡をとれるよう電話番号を教えるよ、と。そんなこと、役者にとっては夢のような話です。とても、パスする気にはなれませんでした」と語る。
今作が、米国はもとより各国で支持を得て、アカデミー賞作品賞と脚本賞に輝いたのは周知のことだ。自身も助演女優賞にノミネートされたマクアダムスさんは、「こんなふうに、皆さんに支持していただける作品、しかもオスカーにからむ作品になるなんて予測すらしていませんでした」と驚きを隠さない。
それでも“予兆”はあったようで、「撮影中に、これは特別な作品になると思ったのは、自己中心的な感じ方ですが、自分が演じる記者たちと密に触れ合うことができたからです。(演じた)サーシャとは、私が彼女に直接質問をぶつけられるような関係でしたし、そこで聞いたものを直接演技に反映することができました。ですからある意味、役作りはすごく楽でした」と笑顔を見せる。
もう一つ、「特別だと思った瞬間」は、野球場に行くシーンを撮影した時だという。マクアダムスさん自身はそのシーンに登場しないが、キャスト全員でボストンの野球場に行き、「野球の試合を見ながら周囲をふと見まわすと、役者がみんな、自分たちが演じた本人たちと一緒に座っていたのです。そんなことは、役者として夢のようなこと。こういうことは、二度と経験できないと思いました」と感慨深そうに語った。
共演者には、キートンさん、ラファロさん、シュレイバーさんら名優たちが顔をそろえた。「全員が素晴らしいスキルを持ち寄って演じていたので、本当に素晴らしいと思うことばかりでした。むしろ、私がみんなの足を引っ張っているんじゃないかとドキドキしたほどです」と謙遜する。「マイケル・キートンが、どうということのないせりふを言う時でさえワクワクしました。この映画にとって重要だったのは、全員が自然体だったということ。それはリーブも同じで、彼は、彼が演じたマーティ(・バロン)と2時間ぐらいしか過ごしていないらしいのです。なのに、あの変わった性質……リーブ自身、今回は本当に変わったキャラクターだと言っていましたが(笑い)、それをつかんで演じていたのです」と感嘆する。
その共演者とは最近会っておらず、数週間後に米ホワイトハウスで開かれる特派員ディナーでの再会を楽しみにしているという。「そこで、キャスト全員が一堂に会するので、“日本に行くことができたラッキーな人”は私だったのよと自慢しようかしら(笑い)」とちゃめっ気を見せる。今回の来日に際して周囲からは、「日本食、日本の方々、公園、自然、桜もぜひ堪能してと言われてきたけど、桜は間に合わなかったわね」とちょっぴり残念そう。なんでも、マクアダムスさんが暮らすカナダのトロントにも桜の木はあり、「たぶん日本から贈られたものだと思うけれど、満開になるとみんながわーっと見に行く」のだという。しかしその数は圧倒的に少ないため、「日本の桜は、さぞ美しかったでしょうね」とうらやましがる。
それでも気を取り直し、児童虐待という重たいテーマを含む今作を、「正しいことのためにみんなが立ち上がって初めて、力を持つのかもしれない。こうした虐待のようなことは、決して、米国の、あの時代に起きた特別な事件ではなく、世界中、私たちの周りで常に起きていることです。そういうことを鑑みながら見てほしい」という願いを込める。
そして、題材の重たさを不安がりながら劇場に足を運んだにもかかわらず、「今まで見たどの映画よりインスピレーションを与えられた」と言っていた知人のことに触れながら、「マッカーシー監督は、児童虐待について、起きたことを追跡していますが、そのディテールを生々しくは描いていません。聡明なことに、彼は記者の視点から事件を追いました。ですから、事件自体は重たいものですが、“こういうことがあったのだ”ということが、(観客の心に)スッと入ってこられるような作品になっているのです」とアピールした。映画はTOHOシネマズ日劇ほかで公開中。
<プロフィル>
1978年生まれ、カナダ・オンタリオ州出身。幼い頃から演劇に興味を持ち、トロントのヨーク大学で演劇の学士を取得。テレビドラマで女優としてのキャリアをスタートさせる。出演作に「きみに読む物語」(2004年)、「シャーロック・ホームズ」(09年)、「恋とニュースのつくり方」(10年)、「シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム」(11年)、「誰よりも狙われた男」(13年)、「アバウト・タイム~愛おしい時間について~」(13年)などがある。ジェイク・ギレンホールさんとの共演作「サウスポー」(15年)が6月に公開。その後も、マーベル・コミックの映画化「Doctor Strange」(16年)が待機している。
(インタビュー・文・撮影/りんたいこ)
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