映画「羊たちの沈黙」(1991年)や「パニック・ルーム」(2002年)などの作品で知られるジョディ・フォスターさんの4本目の監督作「マネーモンスター」が10日から公開されている。生放送中に、拳銃と爆弾を手にした若い男にジャックされたスタジオを舞台に、番組の男性パーソナリティー、リー・ゲイツと、彼の身を案じながら番組を進める女性ディレクター、パティ・フェン、そして犯人カイル・バドウェルの息詰まる駆け引きが展開するサスペンス。作品のPRのために来日したフォスター監督に話を聞いた。
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最近のハリウッド映画といえば、アメコミの映画化やシリーズものが、その代名詞となっている。その中で今作は、CGやVFXに頼らず、一瞬たりとも緊張感が途切れることのないストーリーで見せ切り、久しぶりに“ザ・ハリウッド映画”を実感させる、娯楽性に富んだ作品だ。
その指摘に、「確かに、スタジオが財政的な選択として、シリーズものや、スーパーヒーローものばかりを作っているのが現状です」と話し始めたフォスター監督。「そういうスタジオが、こういうタイプの作品を製作するのは稀(まれ)ですし、ましてや、企画から製作、公開にこぎ着けるのは、珍しいケースだと思います」と、昨今のハリウッド映画の中での今作の特異性を指摘する。
その上で、「ただ私は、観客の方も、より知的なものや、自分に挑んでくれるもの、ユニークなものを見たいと思っていると信じています」と話し、その観客に対する信頼と、今作の、「エキサイティングでスピーディー、知的な上に分かりやすいサスペンスの要素」、「心を揺さぶるリアルなストーリーという要素」が、合致していることをアピールする。
その「ユニークなもの」をけん引するのが、ハリウッドの2大スター、ジョージ・クルーニーさんとジュリア・ロバーツさんだ。クルーニーさんが演じるリー・ゲイツについて、フォスター監督は「すごくエゴが強いし、他人に対する思いやりも持っていない。毎日を確たる信念もなく生きていて、自分自身を見失っている。臆病だし、おまけに大酒飲み」とこき下ろす。しかし、そんなゲイツが、ジャック・オコンネルさん演じるカイル・バドウェルと対峙(たいじ)することで変化していき、「ある意味、再び人間である自分を取り戻していく」。そういった、「最初は(観客に)嫌われるかもしれない」キャラクターだからこそ、「観客を引き付ける、魅力ある役者が必要でした」とクルーニーさんの起用理由を説明する。
また、「今回は、プロットがはっきりしているタイプの台本だったから、アドリブ自体は結構少ない」としながら、もともと、「役者のアイデアを頼りにしていて、大好き」だというフォスター監督は、クルーニーさんが発案した、番組のオープニングで披露するダンスを、もろ手を挙げて歓迎した。「ジョージ(・クルーニーさん)がダンスをしたいと言ってきたときは、すごくうれしかったわ。しかも、笑い者になるぐらいのショーマンシップを見せてくれた。映画のためによかったと思うし、すごく助かりました」とクルーニーさんの映画への献身をたたえる。
そのクルーニーさんと息の合った演技を見せているのがロバーツさんだ。「ジュリアは、素晴らしい人よ。彼女がこの役に決まってから、よりキャラクターを掘り下げる作業をして、より複雑な、ヒロイックなキャラクターに変わっていった」とパティ・フェンが、よりロバーツさん寄りのキャラクターとなったことを明かす。
また、「リーとパティは強い絆で結ばれているという設定ですから、それを演じる役者にも、強いもので結ばれている必要がありました」とフォスター監督は語る。映画で、リーとパティが直接顔を合わせるのは冒頭と最後だけ。あとは、モニター越しに会話をしているに過ぎない。フォスター監督の言葉を借りれば、「ずっとバーチャルな関係」にある。だからこそ、「演じる2人のケミストリー(相性)が合わなければなりませんでした」。その点、ロバーツさんとクルーニーさんは「オーシャンズ11」(01年)、「オーシャンズ12」(04年)で共演し、公私共に仲がいいことでも知られる。相性も申し分なかった。
2歳からCMやテレビドラマで活躍し、72年に映画デビュー。以来、「タクシードライバー」(76年)や「ホテル・ニューハンプシャー」(84年)といった作品に出演し、「告発の行方」(88年)と「羊たちの沈黙」(91年)では米アカデミー主演女優賞を獲得した。その一方で、91年の作品「リトルマン・テイト」で監督業に進出。これまでに、今作を含め4本の劇場長編作を手掛けている。最近では、活況を呈する米テレビシリーズでも演出を務めた。昔から「映画を作ることがやりたかったこと」というフォスターさんにとって、今は充実している状態。その波に乗り、「今は、監督業に集中したい」と当面の心づもりを打ち明ける。
20代後半で初めて劇場長編作を監督し、「それから4本というのは、決して多くはありません。でも、その間、休んでいたわけではなく(笑い)、役者として満足のいくキャリアを築いてきましたし、2人の子育てもしてきました。素晴らしい20年だったと思います。ですが、監督をするとなると、100%それに集中しなければなりませんし、何より企画には“勢い”みたいなものがあります。話が来た時にそれに乗る、そういう準備ができていなければならないのです」と話す。
とはいえ、俳優業への関心を失ったわけではない。「50年間演技をしてきた自分にとって、演技をするということは、ほかと比較できないほど特別なもの」であり、「それをやらないというのはあり得ないことです。ですから、これからも役者としてもやっていきます」と、俳優業への意欲も見せ、ファンを安心させた。
「母が日本の文化が大好きだったこともあり、小さな頃から日本には興味がありました。姉妹が若い頃、すし職人と付き合っていたこともあるのよ」と親日家ぶりを見せる。だから来日のたびに、「この文化を、なんらかの形で映画にできないか、と実は考えてはいる」のだそうだ。しかしその前に、今作の日本公開である。「『マネーモンスター』は、確かに、一般受けする、ペースの速いスリラーではあるけれど、深いキャラクターの物語でもあります。そして、より意義深い物語だと思っています。そういう映画をみなさんにもぜひ見てほしいです」と力を込めた。映画は10日から全国で公開。
<プロフィル>
1962年生まれ、米ロサンゼルス出身。2歳からCMやテレビドラマで活躍し、72年「ジョディ・フォスターのライオン物語」で映画デビュー。13歳で「タクシードライバー」(76)で娼婦役を演じ、アカデミー賞助演女優賞候補となる。「告発の行方」(88年)、「羊たちの沈黙」(91年)でアカデミー賞主演女優賞を獲得。その他の代表作に「コンタクト」(97年)、「アンナと王様」(99年)、「パニック・ルーム」(2002年)、「エリジウム」(13年)などがある。監督業には、91年の「リトルマン・テイト」で進出。以降、「ホーム・フォー・ザ・ホリデイ」(95年)、「それでも、愛してる」(2011年)を手掛けた。最近では、テレビシリーズ「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」(13~14年)、「ハウス・オブ・カード 野望の階段」(14年)のエピソードでも演出を務めた。
(取材・文・撮影/りんたいこ)
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