俳優の三浦友和さんが見事な壊れっぷりを見せる映画「葛城事件」が18日から公開される。父親の威圧的な振る舞いによって崩壊していく一家の悲劇で、劇作家であり演出家、俳優としても活躍する赤堀雅秋監督が、作、演出し、劇団「THE SHAMPOO HAT」が2013年に上演した舞台劇を改稿し、映画化した。赤堀監督にとっては「その夜の侍」(12年)に続く監督2作目となる。父親が“絶対的な権力者”だった時代を知る人には、複雑な心境を抱かせる作品かもしれない。
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金物屋を営む葛城清(三浦さん)は、妻・伸子(南果歩さん)と、長男・保(新井浩文さん)、次男・稔(若葉竜也さん)の4人暮らし。念願のマイホームはすでに手に入れ、家を建てた当初、庭には息子たちがすくすく育つようにとミカンの苗木を植えた。思い描いていた理想の家庭を作れたはずだった。ところが、清の威圧的な振る舞いは徐々に家族を追い込んでいき……というストーリー。
映画の冒頭の裁判官の言葉に、まず衝撃を受けた。なぜ、そんな判決を受けるのか。なぜ、そんな事件が起きてしまったのか。長男のリストラ、思考停止に陥る妻、そして、次男が起こす事件……そこに至る過程を、過去と現在を往来させながら描くことで、人間の不器用さや愚かさ、人生の皮肉をあぶりだしていく。すべての原因は、清のうっとうしいほどの真っすぐさにあった。にもかかわらず、「俺も被害者なんだ。一体俺が何をした」と叫ぶ彼が、ただただ哀れだ。
それにしても、ここまで壊れた三浦さんは初めて見た。悪どさは、「アウトレイジ」シリーズ(10、12年)で演じたヤクザ以上。中華料理店でマーボー豆腐が辛すぎると店員にいちゃもんをつけるなど、決して褒められた父親ではない。しかし、ふと思う。清のように「一国一城の主」「一家の大黒柱」風を吹かす父親は、昭和の時代にはゴロゴロいた。それに、清が言っていることは、あながち間違ってはいないのではないか、と。昭和の時代に生まれ育った筆者としては、清を擁護しないまでも完全否定まではできず、いささか複雑な気持ちになった。ほかに田中麗奈さんらが出演。18日から新宿バルト9(東京都新宿区)ほか全国で公開。 (りんたいこ/フリーライター)
<プロフィル>
りん・たいこ=教育雑誌、編集プロダクションを経てフリーのライターに。映画にまつわる仕事を中心に活動中。大好きな映画はいまだに「ビッグ・ウェンズデー」(1978年)と「恋におちて」(84年)。
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