超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、ユニークな動画を配信する子供たち憧れの職業、YouTuberの新潮流で、架空キャラクターが配信者の「バーチャルYouTuber(VTuber)」について語ります。
ウナギノボリ
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VTuberがブレーク中だ。草分け的存在のキズナアイ(Project A.I.)は2016年から活動を始め、YouTube上のチャンネル登録者数が200万人を突破。オリジナル楽曲「Hello,Morning」はアマゾンデジタルミュージックのランキング1位も記録した。テレビ番組にも出演するなど、活躍の幅を広げている。それを追うようにビジネスが過熱中だ。
最右翼はソーシャルゲーム大手のグリーで、関連事業を手掛ける子会社のWright Flyer Live Entertainmentを設立。8月にはキングレコードと協同出資し、VTuber特化型の音楽レーベル事業会社「RK Music(仮)」の設立を発表した。他にも大手中小を問わず参入が続き、現在3000人以上のVTuberが活動している。
背景にあるのが、人体の動きをデジタル信号に変換する技術「モーションキャプチャー」の低価格化だ。これに従来からある3DCG技術やバーチャルリアリティー(VR)技術が融合し、人体の動きをリアルタイムで3DCGキャラクターに投影させ、インターネット上で配信できるようになった。今では単に動画を見るだけでなく、ブラウザーを介してVTuberと視聴者が互いに交流することもできる。
VTuberは個人クリエーターによる草の根配信にも飛び火した。ニコニコ動画で知られるドワンゴは、4月に配信ソフト「バーチャルキャスト」のベータ版を無償で公開した。最大6人まで同時に仮想世界で交流できる。8月下旬にはAndroidのスマートフォンで配信できる「カスタムキャスト」の配信も予定。VTuberが爆発的に増えることが予想される。
スマートフォンのVTuber配信は、コミュニケーションのあり方を大きく変えていく可能性を秘めている。仮想世界でのVTuber同士の交流は、私も取材などで体験済みだが、一緒に体を動かしたり、ボールを投げたりといった、たわいもない行為をするだけで楽しい。VRゲームと同じで、脳が本物の人間と錯覚するのだ。
その上で興味深いのは、VTuberが日本発の現象だということだ。海外では、実在の人物が動画配信をするYouTuberが主流で、VTuberは現状ほとんど見られない。VTuberは、男性が美少女キャラクターになりきる例が見られる点も特徴で、マンガやアニメに代表されるキャラクター文化の浸透もあって、実在(リアル)のYouTuberにはない厚みが感じられるのも面白い。
VR元年と言われた2017年の牽引(けんいん)役となったのはゲームだった。18年のVRの主役はVTuberになっている。ゲームの要素が失われているようにみえるが、今後は、VTuberの要素を取り込んだゲームが生まれてくることも予想され、ゲーム自体を変えていく可能性がある。世界中から日本発の新しいエンターテインメント(ゲーム)が登場することを期待しているし、今後のVTuberの動きにも注目したい。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚して妻と猫4匹を支える主夫に。11~16年に国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表として活躍。退任後も事務局長として活動している。
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