50周年を迎えた長寿アニメ「サザエさん」の舞台化が、“サザステ”と呼ばれ話題を集めている。「刀ステ」(刀剣乱舞)、「テニミュ」(テニスの王子様)など、2.5次元作品の愛称を思わせる現象は、これまでのサザエさんの実写化とは一線を画しているように見える。アニメコラムニストの小新井涼さんが理由を分析する。
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今年でアニメ50周年を迎えた「サザエさん」が舞台化されることになり、ネットでは“サザステ”と呼ばれて密かに話題になっているのをご存知でしょうか。「サザエさん」といえば誰もが知っている国民的アニメですが、最近のアニメやソシャゲのように、2.5次元化で盛り上がる作品とは正直思えません。また既にドラマ化されたことがあり、舞台化も初めてのことではないため、よくある“実写化への否定的な声が大きい”という訳でもないようです。
では舞台版「サザエさん」が公演前から度々SNSで話題になり、何かと注目を集めているのは一体何故なのでしょうか。
手がかりのひとつは、“サザステ”という愛称にあると思います。舞台、つまりステージを何々ステ、ミュージカルを何々ミュと略すのは、「ペダステ」(弱虫ペダル)や「刀ステ」「刀ミュ」(刀剣乱舞)、「テニミュ」(テニスの王子様)や「忍ミュ」(忍たま乱太郎)など、女性人気の高い2.5次元作品によくある慣習です。つまり“サザステ”という愛称は、普段からそうした言葉づかいをしている2.5次元舞台の女性ファンたちから発生したものとみて、まず間違いないでしょう。特に女性人気が高いわけでもない「サザエさん」の舞台に、なぜ彼女たちによる愛称がついたのかというと、それはカツオとタラオ役に、荒牧慶彦さんと大平峻也さんという2.5次元で活躍する俳優が起用されたことがきっかけと思われます。
まさかのキャスティングに彼らのファンも、「(カツオ役の)推しが坊主になるかもしれない」、「(タラオ役の)推しが幼児になるかもしれない」とざわつくなど、発表当初から“サザステ”には注目していたようです。SNSで何かと話題になっているのも、そうして女性の2.5次元ファンが注目し、舞台の動向やチケットのやりとり、観劇予定などを次々と情報発信しているからなのでしょう。
もうひとつの手がかりは、舞台版「サザエさん」の「サザエさん」らしからぬ“攻めた設定”にあると思います。
例えば舞台のチラシには、10年後の物語であるという説明とともに、「サザエ、不審な波平の姿を目撃する?!」「カツオ就職活動中」「ワカメは留学を考える」という、アニメや原作マンガではまずお目にかかれないシチュエーションがあおりとして掲載されています。さらに、アニメでも原作でもしゃべることがない猫のタマ役に俳優の酒井敏也さんが起用されるなど、「サザエさん」の熱心なファンでなくても思わず「どういうこと!?」とツッコみ、その情報を拡散させたくなるようなネタが随所に盛り込まれているのです。
こうした設定は、普段「サザエさん」や2.5次元舞台には興味がなさそうなアニメファンからも特に注目を集めているようで、ネタとして拡散されている様子も多く見受けられました。
もはや舞台化といっても珍しいことではなく、作品数も増えて少し飽和気味でもある2.5次元界隈で、舞台版「サザエさん」が妙に話題になっているのは、こうしてネットでの発言が多い2.5次元ファンやアニメファンに刺さる要素を持っていたからなのでしょう。
また、これらの要素は、単に注目を集めるだけではなく、2.5次元ファンやアニメファンに対して“「サザエさん」という作品の敷居を低くすること”にも大きく貢献しているように思います。
冒頭でも言いましたが、“「サザエさん」の舞台化”と聞いてすぐさま飛びつく2.5次元ファンやアニメファンは、正直そんなに多くはないでしょう。それは誰もが知っている国民的アニメであるがゆえに、普段一部のコアな層に向けた作品に親しむ2.5次元ファンやアニメファンほど、例えアニメの2.5次元化ではあっても、これは「自分たち向けの作品ではない」と感じてしまうからだと思います。
今回、2.5次元で活躍する俳優や攻めた設定を使ったことは、“「サザエさん」の舞台化”と聞いただけでは「一般向けの作品なんだろうな」と思って興味を持たなかったであろうファン層に、進んで話題やネタにしてもらうことによって「自分たち向けでもあるのかも」と思わせることができたのが何より大きかったのではないでしょうか。そうして意外なファン層が注目したことで、“サザステ”は、同じ国民的アニメである「ドラえもん」が2017年に舞台化されたときとも、私たちが“「サザエさん」の舞台化”と聞いて思い浮かべるものとも違った盛り上がりを、今回こうして見せているのだと思います。
こあらい・りょう=埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。明治大学大学院情報コミュニケーション研究科で、修士論文「ネットワークとしての〈アニメ〉」で修士学位を取得。ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)の全アニメを視聴して、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続中。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、現在は北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程に在籍し、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。
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