ダンダダン
第8話「なんかモヤモヤするじゃんよ」
11月21日(木)放送分
末次由紀さんの人気マンガを広瀬すずさんの初主演で実写化した映画「ちはやふる」(小泉徳宏監督)の2部作の後編「下の句」が29日に公開された。「ちはやふる」は、末次さんが2007年からマンガ誌「BE・LOVE」(講談社)で連載中で、コミックスは31巻まで発売され、累計発行部数が1600万部を超えるベストセラーマンガ。主人公の千早が、転校生の新との出会いを通じて競技かるたの魅力に目覚め、幼なじみの太一らかるた部の個性的なメンバーたちとともにかるたに情熱を燃やす姿を描いている。実写化にあたっては「タイヨウのうた」(2006年)や「カノジョは嘘を愛しすぎてる」(13年)など青春映画で知られる小泉監督がメガホンをとった。主人公・千早を広瀬さん、太一を野村周平さん、新(あらた)を真剣佑(まっけんゆう)さんら今をときめく若手俳優が顔をそろえた今作について、小泉監督に話を聞いた。
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――人気マンガの「ちはやふる」を監督をすることになったいきさつを改めて教えてください。
原作は2008年頃、まだコミックスが3巻くらいしか出ていなかった頃に妻に勧められて読んでいて。映画化はあり得るのかと思って調べたところ、映像化権をどこかが持っているという話で、あきらめていた経緯があったんですね。それが巡り巡って、僕に話が来たのでこれは何かの縁かなと思って受けたんです。2014年4月ぐらいに(製作側からの)最初のコンタクトがありまして、それからシナリオ作りを始めました。
普通の青春映画とか恋愛映画と違って、百人一首という特殊な歌を取り扱っているということもありましたので、普通とは違った青春映画、恋愛映画を撮れるのではないかと思って、これは撮るべきだなと思いましたね。
――2部作で製作ということになりましたが。
原作は、現在では31巻分あって、1本の映画で伝えようとすると原作の面白いところの氷山の一角しか伝わらないなという思いがあったので、より原作の魅力が伝わるように2部作にさせてもらいました。それでも100%とはいえないかもしれないけれど、1本では伝えられない何かが2本で伝えられるのではないかなと思って。
――「上の句」と「下の句」は純粋な続編ではなく1本、1本で確立しています。そこは狙ったのですか。
狙いました。やっぱり映画が2本で1本というのはなんだな、と。もちろん2本で1本なんですけれども、それぞれを見ても絶対に楽しめるようにしたいと思って、たとえ「上の句」しか見なくても、満足いくように作ったつもりですし、「下の句」だけ見たとしても話の流れがだいたい想像がつくようには作ってあります。そこもこだわったところですね。
――原作の末次さんから「原作より面白くしてくれ」というオファーがあったとか。それをどうクリアしようと?
めちゃくちゃですよね(笑い)。いい意味で、原作を越えようというよりは別のベクトルで行こうと思いました。原作とはちょっと違うけれども、これはこれで面白いよねと言ってもらえるもの、原作を再現するのだと気負わず、映画作品として成立、クオリティーの高いものにしようという意識でいました。そういう意味では原作を多少改変したり、構成を変えたりということも恐れずにやろうという気持ちでしたね。それがうまくいけたような気はしています。
――旬なキャストがそろっています。これはタイミング的には偶然ですか。
これは偶然ですね(笑い)。キャスティングしていた頃はみんなここまでは知られていなかった。広瀬さんも「海街Diary」が公開する前で、すごい子がいるぞくらいの感じでした。
キャストの中で唯一名前が知られていたのが(かるたクイーンの若宮詩暢役の)松岡茉優さんで、野村君もそんなにはメジャーになっていなかった。これからという感じの子たちが多かったので、公開時にここまで彼らが売れているとは思っていなかったんですけれど、ある程度それを見越して、可能性を感じる人達を選ばせてもらいました。仮にこの映画が公開される頃に知られていなくても、この映画で知ってもらう、ブレークしてほしいと思いましたね。
――そういう意味では真剣佑さんがこの作品でブレークしそうです。
品がある王子系の顔をしていて、こういうタイプはちょっと久しぶりかなと。中身も実にしっかりしていてストイックだし、役に対して真面目に取り組む。本当に侍のような男なんですよ。彼はまだ、そこまで知られている存在ではないので、この映画をきっかけにドカンと行ってくれるといいですね。
――真剣佑さんは今作の準備期間に福井に2、3週間住んだとか。
福井のかるた会に入会して、かるたのトレーニングをすると同時に、福井弁の練習も兼ねて“留学”してもらいました。彼は17歳までアメリカに住んでいたんですけれど、極めて日本的な心の持ち主で、侍的で目上の人を敬う気持ちもしっかりあって、言葉遣いもすごく丁寧で。でも根っこのところで何か生粋の日本人とは違っているものがあると感じていたので、日本人の精神性みたいなものを福井に行って体感してもらおうと、「もののあわれ」を学んでこいという狙いもありました。
――かるたをするシーンは映像化するのが難しかったのではないですか。
とにかく動と静の差が激しいんです。動くときはバーンと動くんですけれど、動かないときはまったく動かない。そこが魅力ではありますが難しくもありましたね。動きをとらえるのがどうしても普通のカメラだと難しいということでハイスピードカメラを使って。ファントムという1秒間を1000コマに分解できるカメラを使用したんですけれど、それでも見えづらい動きのときもあったくらい動きが速かったので、少しゆっくり動いてもらったりしたくらいで。俳優にはゆっくり動くんですけれども力はちゃんと入れてくれという、非常にややこしい注文をしました。ゆっくり見せれば見せるほど本当にかるたがうまくないと粗(あら)も目立ってしまうので、俳優にはものすごく練習してもらいました。
松岡さんは最強クイーンなので相当根を詰めて練習していました。あのハイスピードカメラを使って激しい動きをすると、だいたい一コマくらいは変顔が映っちゃうんですよ(笑い)。でも、松岡さんはそこはビシッと1000分の1秒でも表情を作っていましたね。
――CGを使った部分もあると思うんですけれど、とても動きが自然でした。
札が狙い通りのところに飛んでいくかをコントロールするのはなかなか難しくて、そこはCGに頼るしかないのかなと思う部分も確かにあったんですけれど、実はふたを開けてみると、思ったほどCGを使わなかったんですよ。よっぽど特殊な動きでない限りは本当に札を飛ばしているんです。それもみんなの練習のたまものなのかなと。実際にCGを使わずに撮れたカットがいくつかあったので、その動きにならって、現実にはこういう動きをするんだというのを参考にしながら、CGがどうしても必要なところは参考にして作っていきました。あまり見せ過ぎず、見せなさ過ぎずというバランスがすごく難しかった。
――自然な感じがしました。あと、音にこだわっているように感じました。
かるたって読手が読む最初の1文字目、2文字目くらいで、すぐにどの札かが分かるんです。試合のシーンではまさに静と動が入れ替わりやってくるので静かな、音がまったくない瞬間というのがすごく印象的で、それを映画で再現したいというのがありました。「かるたのしじま」と僕は言っていたんですけれど、次の上の句が読まれる一瞬の間、みんながぐっと集中する間があるんですけれど、そこを再現するのにすごく気を使いました。効果音や音楽をその緊張感に合わせて付けていった。畳の音も場所によって全然違うんですよ。会場の大きさによってその辺にもこだわって作りました。
――今作のキャストには、今後どういう俳優になってほしいですか。
広瀬さんは何十年に一人の逸材のような気がします。もちろんビジュアルもそうですし、芝居もとてもうまい。それだけじゃなくて、とにかく華がある。そして、「持っている」。ここぞという瞬間にここぞという芝居が出せる。「持っている」感がこの映画を撮っている間に何回もありましたので、スターってこういうことなんだなとしみじみと感じました。日本の王道の女優のライン、吉永小百合さんや宮沢りえさんらのラインにいるんじゃないかという気がします。海外でいうとオードリー・ヘプバーンとか、王道、正統派で、誰からも愛されるというような人になっていくんじゃないかなと思います。
野村さんはとても不器用な方なんです。その不器用さがすごくいい味を出すんですよ。これから成長の伸びしろはたくさん残っているんですけれど、芝居が超うまい人に行くか、その不器用さを極めていってそれを個性にしていくか、まだ選べるところにいるので、どうなるか楽しみですね。高倉健さんのように「野村周平って、何をやっても野村周平だよね。でもそれがいいよね」っていうくらいのところに行くのか、何にでもなれるよねというバケモノ俳優になるのか。まだ彼はそのY字路の手前にいるので、そこを彼は意識してどっちに行くのかを、これから決めていけばいいんじゃないかなと。
――松岡さんは?
松岡さんはかなりの演技力を持っているので、それこそバケモノ女優じゃないかと(笑い)。何にでもなれてしまう感じなんですよね。ただ、広瀬さんとはまったく逆のところにいて、現場の瞬発力というよりは事前にすごく計算して、せりふの内容も吟味し、脚本の流れも吟味して演出家が求めているものを理解しながら現場に臨んでくる、すごくストイックでクレバーな役者さんです。そういう道を突き進むのもいいですし、現場の流れに身を任せて、その場のリアクションで感覚的に芝居をするということもキャリアの中でやっていくと、末恐ろしい才能になるような気がしますね。
――小泉監督にとって「ちはやふる」はどういう作品になりましたか。
基本的には映画はお客さんに楽しんでもらいたいし、たくさんの人に見てもらわないと意味がないと思っているので、エンターテインメント作品をやるのは好きなんです。でもそれだけじゃだめだなと思っていて、その中で何かを受け取って、感じ入るものがないとそれはエンターテインメントじゃないと思っています。楽しくて、笑ったり、心が動いたりする映画だけれども、ちょっと胸に残るようなことがしのばされている。糖衣にくるまれた薬のように、一見甘いけれども、みんなが気が付かないうちに仕込まれているようなことをやりたいなと思っていて、それは「ちはやふる」ではできたのかなと。そういうことをこれからやっていけるかどうか、希望が見えてきたという感じがしました。
――今回は原作ものですが、オリジナルだったらこういう作品を撮ってみたいという思いはありますか。
オリジナルは常にやりたいと思っています。少し不思議な話がやりたい。SFの要素も入っていて、ファンタジーといえるかもしれないし、でも現代と地続きのもの。例えば(洋画でいうと)「エターナル・サンシャイン」とか「インセプション」のように、現代でありながらも記憶の中に入ったり、夢の中に入って行ったりというちょっと不思議な話。そんな地続きのファンタジーをやりたいなと思っています。
<プロフィル>
小泉徳宏(こいずみ・のりひろ) 1980年8月20日生まれ、東京都出身。2006年に「タイヨウのうた」で長編映画監督デビュー。その後、「ガチ☆ボーイ」(08年)、「FLOWERS」(10年)、「カノジョは嘘を愛しすぎてる」(13年)とヒット作を手がけてきた。「ちはやふる」は「上の句」が3月19日に公開され、「下の句」は4月29日に公開された。初めてはまったポップカルチャーは、マイケル・ジャクソンの「BAD」のミュージックビデオ。「アメリカに住んでいた7歳の頃にMTVばかり見ていて、『BAD』は映画仕立てでとにかくカッコよかった。(映画監督の)マーチン・スコセッシが撮っていたと最近知ったんですけれど。あれはちょっと衝撃的でした」と語った。
(取材・文・撮影:細田尚子)
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