吉岡秀隆:金田一耕助役「全部ささげました」と達成感 頭をかく金田一の癖が「自分の癖になった」

28日放送のスペシャルドラマ「悪魔が来りて笛を吹く」で主人公の金田一耕助を演じる吉岡秀隆さん (C)NHK
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28日放送のスペシャルドラマ「悪魔が来りて笛を吹く」で主人公の金田一耕助を演じる吉岡秀隆さん (C)NHK

 横溝正史原作のスペシャルドラマ「悪魔が来りて笛を吹く」(NHK・BSプレミアム)で、主人公の金田一耕助を演じている俳優の吉岡秀隆さん。故・渥美清さんが金田一耕助役を務めた1977年作「八つ墓村」で映画デビューを飾った吉岡さんは、「尊敬する渥美さんが、僕の映画デビュー作で金田一だったので、ついに『金田一キタ!』っていうのはある。どこかずっと何となく意識していたキャラクターで、いつも胸のどこかにトゲのように刺さっていた役」と金田一役への思いはことのほか強い。一方で、今作の金田一を演じるにあたっては「本当に悩みながらで。だから本当に頭をかく癖が(自分の)癖になってしまった」と明かす吉岡さんに、話を聞いた。

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 「悪魔が来りて笛を吹く」は、1951(昭和26)年発表のミステリー小説で、横溝作品には珍しく、東京の元華族の屋敷が舞台になっている。銀座の有名宝石店で、毒物を使った殺人事件が起きる。容疑者と目された旧華族の椿英輔は「これ以上の屈辱に耐えられない」と自殺する。無実を信じる娘の美禰子からの依頼を受けた金田一耕助は、椿邸で行われた奇妙な占いに立ち会うが、その夜、館に居候していた元伯爵が殺害される。捜査を始めた金田一は、旧華族のインモラルでおどろおどろしい人間関係やおごり、それらが生み出した怨念と悲劇に向き合うことになる……というストーリー。

 ◇吉岡秀隆版・金田一耕助は「景色の一部でいられるような人物」

 ドラマの脚本は、映画「桐島、部活やめるってよ」「ディストラクション・ベイビーズ」の喜安浩平さん。演出を、吉岡さんも出演したNHKのドラマ「富士ファミリー」シリーズなどで知られる吉田照幸さんが担当。吉岡さんは「台本をいただいてから、毎日読むたびに新しい疑問と解釈が生まれてきた。どの方面から監督は狙って撮っていくんだろうという怖さや、一日ごとに全く変わっていく面白さ。原作とはまた違ったすごさがある」と話す。

 劇中での金田一は「優しいですね。あとは頼りない」といい、「『救いたい』という気持ちはすごくあるような気はしますね。事件に関わることで、これ以上、誰にも死んではほしくないっていうのは一番にある」と気持ちを代弁する。容姿については「金田一だからといって、髪が長くて、汚くてっていうイメージよりも、僕の中での一番は野次馬の中の一人でいられる、景色の一部でいられるような人物。だから『コスプレみたいにはなりたくない』と監督がおっしゃってくださったのは、とても救いになった」とも明かしている。

 好きなせりふは「人はすべてを知ったつもりで真実を見失う」で、「この一言が入ってから台本がぴりっと締まったというか。そこに向かって進んで行けば、ボクは金田一になれるだろうし、今までの金田一とはまた違った、新しい金田一が生まれるのかなっていう感じはしました」としみじみ。「金田一がいなければってところもあるんですよね。『悪魔が来たりて~』に限っていうと、謎解きを頼まれて金田一が事件に踏み込むことによって生まれる悲劇もある。そこに金田一さえいなければよかったのかなとか」と複雑な胸の内を明かす。

 ◇謎解きシーンは台本30ページ分ほぼ独演 カットかからずまさかの“テープ切れ”?

 「富士ファミリー」シリーズでの盟友・吉田監督との仕事については「NGを出さない、すべてオーケー。それが逆にとても怖い。すべて一発撮り。そこの緊張感はある。説明してもらった方が役者は楽なので、修業の場です」と苦笑いする吉岡さん。「『どうだこれで、どうだこれで』と挑戦されているような、どんどん面白くなっていく感じと、どんどんせりふが増えていく感じがたまらなくて。(台本の)ラスト30ページはほとんど僕がしゃべっているから、これはいじめなのかっていうくらい、よくしゃべる金田一。そういうところを含めて、僕を金田一にさせてくれた」と感謝する。

 最大の見どころはやはり、ラスト30ページ分、ほぼ独演となる謎解きのシーンだ。当初2回に分けて撮る予定だったというが、あまりに吉岡さんのせりふが完璧で、演技も素晴らしかったため、監督がカットをかけるにかけられず、先にテープが終わってしまうハプニングもあったという。吉岡さんは「僕もどこでカットをかけてくれるんだろうって思いました。ピーって音が鳴って、テープ止まっているのに、監督はカットをかけない……」と、この時ばかり驚いた様子だった。

 また今回、「本当に悩みながら。だから本当に頭をかく癖が(自分の)癖になってしまった」という吉岡さん。「(撮影中に)メモ書きして、ここはどういう解釈だったんだろう、これはどこで気づいたんだろうって、あとは時系列とか、勉強していって。誰よりも僕自身が分かっていないと、最後の謎解きのときに説得力がないので。ラスト30ページ、時間にして25分、僕自身、見るのが楽しみです」と笑顔を見せていた。

 ◇「尊敬する」渥美清さんよりも若く… 金田一耕助役実現には安堵 

 吉岡さんは、ドラマ1作とはいえ金田一耕助役を全うした現在の心境を「渥美さんが金田一を演じた年齢よりも前に演じておきたかったので、それが実現できてよかった」と語る。「過ぎちゃったら、あきらめなくちゃっていう思いがどこかにあったのかもしれませんね。『さよなら金田一さん』って。でもご縁があって実現できた」と安堵(あんど)の表情を浮かべる。

 さらには「ああすればよかった、こうすればよかったというのは、何につけてもあるんですけど、金田一に限っては、監督の全部受け止めてくれる懐の大きさもあるんでしょうけど、もう何もないです。全部ささげましたという感じでいます。事件解決というところにおいては、金田一は後悔しているかもしれませんが、僕は後悔していません」と言い切った。

 ドラマはNHK・BSプレミアムで28日午後9時~同10時59分に放送される。

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