19日公開される女優の吉田羊さんの主演映画「ハナレイ・ベイ」(松永大司監督)。原作は、村上春樹さんが2005年に発表した短編集「東京奇譚集」(新潮文庫)の一編だ。米ハワイのハナレイ・ベイで一人息子を事故で亡くしたシングルマザーのサチ(吉田さん)は、10年間、息子の命日の時期になると現地を訪れ、亡くなった海辺近くの木の下で読書をしていた。ある日、サチは2人の若いサーファー(村上虹郎さんら)と出会い、「片足の日本人のサーファーがいた」といううわさを聞く……というストーリー。サチの息子・タカシを演じたダンス・ボーカルグループ「GENERATIONS from EXILE TRIBE」の佐野玲於さんに聞いた。
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佐野さんが起用されたのは、松永監督が2016年に「HiGH&LOW THE LIVE」を見に行き、気になったのがきっかけだという。佐野さん自身は「びっくりしましたけど、それとともにうれしかった。ライブに足を運んでいただいて、そこで多くのメンバーが出演している中、自分に演じてもらいたいと思ってくださったことが、ありがたい」と感謝する。
演じるにあたって、原作を読み、「1回さらっと読んだ後に、松永監督が仮で書いた台本をいただいて読んだら、原作の世界観にリスペクトしながらも、どちらかというと松永監督が描くものを大事にしなきゃなと思った」と感じ、「そこを根底に置いた上で、タカシってどんな人間なんだろうと考えるようにしました」と言う。
原作ではタカシについて詳細には触れられていないが、「タカシの人生って自分だなって思って」と佐野さんは話す。「タカシにとっての環境はハワイとかサーフィンというだけで、自分にとってはそれがダンス。タカシと同じような人生を自分も歩んでいるので、すごく自分と近い部分があり、タカシ=自分みたいな感じで自然に演じられました」と明かす。
吉田さんは「羊さんは完全に母親でした。いい意味で遠慮なくいかせてもらえましたし、羊さんも遠慮なく母親でいてくれたので、余計なことを考えないようにしました」と話し、「この作品で吉田羊さんのサチがいるならば、それをひも解いていったとき、自分という息子がいて……。自分は、ただ息子でいることを考えました」と振り返る。
タカシはサーフィンが趣味だが、佐野さん自身はサーフィン経験がなかったため、「行けるときに仕事前に海に行って練習しました。サーフィンは自然を相手にするスポーツなので、本当に難しくて、すごいスポーツだなと思いました」と感慨深げに語る。「(今後プライベートでも)ちょっとやってみたいかな。でもケガはできないので、ケガしない程度にしかやらないと思いますけど、海に出るっていいなって思いました」と笑顔を見せる。
映画は、美しいカウアイ島、ハナレイ・ベイの景観も見どころの一つだ。「山とか海とか自然が本当にすごかった。カウアイ島で過ごしてみて、東京という環境にいると無駄が多い。ストレスと時間に追われている街だなって」と感じたという。「もちろん世界から見ても東京はすごいけど、カウアイ島みたいなところへ行くと何も欲がなくなる。数日いてみて何もいらないと思えちゃう」と思いをはせる。
その理由を、「流れている時間とか人とか環境とか街並みもあると思う。そこに完全に自分は溶け込んでしまった感じはありました」と説明。「天国なんじゃないかと思うくらい自然がすごくて、街も道の駅のようなサイズ感で、ポケモンで言ったら『マサラタウン』みたいなところ」と言って笑う。
そんな美しい自然の中に身を置くことで自分と向き合った結果、「結構自分って切羽詰まっていたんだなと。1回ハワイに行って、1回肩の荷を下ろして、やっと一呼吸できた時間だったかもしれない」とすっきりとした表情を浮かべる。「また行きたいですけど、行ったらだめになっちゃいそう(笑い)」とちゃめっ気たっぷりに語る。
今年は「虹色デイズ」で主演の一人として初主演するなど、俳優として活動の幅を広げる佐野さん。「俳優業って一人で戦うものだと思うんです。アーティスト活動しているグループとは、また別の軸で学べることもたくさんある」と言い、「違う環境に身を置くことで、入ってくる情報とか自分がやることも新鮮」と感じている。
そんな忙しい毎日を送る中、健康維持のために気を付けていることは「まったくない」と言い切り、「体を動かすのは仕事なので、健康維持ということではなないかもしれない。ケガに気を付けるという意味では日頃からマッサージを受けたり、そういう体のケアはしています。あとはちょっとサラダを食べるようにするとか、それぐらい」と自虐的にコメント。
初めてはまったポップカルチャーは「ダンスを通した音楽」で、「ダンス=アメリカのカルチャーとかブラックミュージックというのは、一番最初にのめり込だもの。小3とかダンスを始めてからです」と経緯を説明する。
俳優として今後やってみたい役は、「汚い役をやりたい。(悪いやつというわけではなく)人間的にすごく生身な役」と意外な答えが返ってきた。「“華”がある職業ながらも、それとは別にドロドロした役とかやってみたい。それが若いうちにできるといい」と目標を口にする。
では10年後はどんな自分になっていたいかと聞くと、「改めて自分の芸を大事にし、ダンスとか芝居とかに秀でていたいというか、磨き続けていたい。時代の変化や流れもあると思いますが、自分のスタンスをもっと深くしていって、表現者として大きくなっていたい」と目を輝かせた。
(取材・文・撮影:遠藤政樹)
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