鎌倉殿の13人:全成に範頼…“義経以外”にも光を当てた三谷幸喜脚本  

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第30回場面カット 新納慎也さん演じる阿野全成の最期 (C)NHK
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大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第30回場面カット 新納慎也さん演じる阿野全成の最期 (C)NHK

 俳優の小栗旬さんが主演を務めるNHK大河ドラマ鎌倉殿の13人」(総合、日曜午後8時ほか)。8月7日放送の第30回「全成の確率」では、新納慎也さん演じる阿野全成の壮絶な最期が描かれ、視聴者から「やりきれない」「今までで一番泣いた」といった声が次々と上がった。今作は、全成、範頼(蒲殿、迫田孝也さん)、義円(成河さん)と、義経(菅田将暉さん)以外の「頼朝の異母弟たち」にも光を当てているのが特徴。だからこそ、それぞれの死がこんなにも悲しいのかもしれない。

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 ◇義円は心がきれいすぎた? 義経にそそのかされ、戦で散る

 「鎌倉殿の13人」に登場した「頼朝の異母弟」は全部で4人。その中で最初に死を迎えたのは義円だった。3月20日放送の第11回「許されざる嘘(うそ)」での出来事で、人を疑うことを知らない義円は、平家討伐を焦る義経によって言葉巧みに誘導されると、京で世話になったという叔父の行家(杉本哲太さん)に対する恩義もあって戦へ。そして、墨俣川の戦いで命を落とす。

 「義円は心がきれいすぎた」といった感想も多く、義円役の成河さんも、ドラマの公式ツイッターで「義円は義経に対しても、疑うことなんてはなからなかったでしょうし、とても感謝していたし、とても全員の兄弟を尊敬していたでしょうし、そういう心の機微に気付けなかったと思います」と推測。

 兄弟に囲まれた時間を過ごして「うれしかったんだろうと思う」とした上で、結果、墨俣川の戦いで命を落としたことについては、「ある種ちょっと浮かれてしまった部分もあったり、ある種信じすぎてしまった部分もあったり、そこは義経は一人ずっとクールだったということだと思うので、喜びの中で妄信してしまった、というところなんじゃないでしょうか」と話した。

 ◇実行犯は善児 範頼“衝撃的な最期”に頭を巡った「兄弟」

 義経同様、ボタンの掛け違いから、頼朝との関係がギクシャクし、最終的に“消されてしまった”のが範頼だ。その最期が描かれのは、6月19日放送の第24回「変わらぬ人」でのこと。前週第23回「狩りと獲物」の終盤、頼朝の側近・大江広元(栗原英雄さん)いわく「次の鎌倉殿になったかのように振る舞った」として、立場が危うくなってしまった範頼は、頼朝の前で身の潔白を証明しようと試みるも、頼朝は決して範頼の言葉を信じようとはしなかった。結局、範頼は死罪は免れたものの、頼朝から謹慎を命じられ、伊豆の修善寺に幽閉されてしまう。

 愛娘・大姫(南沙良さん)を病で亡くした頼朝はやがて、自身の身に降りかかる不幸を範頼の呪詛(じゅそ)によるものと考え、「やはり生かしておくべきではなかったか」とつぶやく。そして範頼は、梶原景時(中村獅童さん)が放った善児(梶原善さん)の手で、村人もろとも殺されてしまう……。本編終了まで残り1分での出来事で、視聴者に衝撃を与えた。

 範頼役の迫田さんは、ドラマの公式ツイッターで公開された音声コメントの中で、衝撃的な最期について「あっという間に命がなくなるんですけれども、範頼を演じた者としてはあの瞬間、兄弟が頭の中をずっと巡っていましたね」と告白。

 「善児という実行者の後ろには兄上がいたのかもしれない。兄上が今まで九郎(義経)をそういうふうに倒してきたし、自分もそのうちの一人になるのかなとか、ちょっと悲しくなりましたね。兄弟としての今までの生活がすごく平和だっただけに、『これで終わるんだ自分の人生は』というふうに……本当にあっという間、こうも簡単に終わるんだなぁ、でも、それがもしかしたらあの時代の当たり前の世界なのかなぁ、そういうふうに思いました」と語っていた。

 ◇巻き込まれた全成の壮絶死 自分の赤い血から連想し、妻の名を叫ぶ

 範頼に負けず劣らず“いい人キャラ”として視聴者に愛され、頼朝の死後も生き残った全成だったが、やはり運命には逆らえなかった。

 7月31日放送の第29回「ままならぬ玉」で、源頼家(金子大地さん)の跡継ぎをめぐる覇権争いに巻き込まれてしまった全成。第30回では、頼家に対して呪詛を行った疑いにより、詮議を受けるなど、窮地に。比企能員(佐藤二朗さん)はその背後に北条家の暗躍があると確信し、対決姿勢をさらに強める。そのころ北条家では、夫・全成が巻き込まれて激怒した実衣(宮澤エマさん)が、父・時政(坂東彌十郎さん)を追及。名乗り出ようとする時政だが、りく(宮沢りえさん)に止められる。

 義時(小栗さん)は北条家を守るために一案を講じ、畠山重忠(中川大志さん)らの助力を得て、頼家の元へ全成の助命を願う申し状を届ける。結果、全成は流罪となり、首をはねられることなく、八田知家(市原隼人さん)が治める常陸国へと送られる。

 しかし、頼家から所領を他の御家人に分け与えるように言われ、怒りが収まらない能員は、頼家を排除しようと、全成の元を訪れ「実衣殿の身が危うい」と吹き込み、呪詛の道具を手渡す。能員の口車に乗ってしまった全成の行いが発覚すると、能員は我が身可愛さに「これはもはや謀反」と頼家に訴え、頼家もまた、全成を死罪と処すことを決める。

 全成は死の直前、ひたすら呪文を唱え、“その力”によって、激しい雨風と雷を起こすが、知家の手により命を落とし……。自分から流れる赤い血から連想し、「実衣~」と妻の名前を叫んだ全成の壮絶な最期に対して、SNSは「本当に悔しい。やりきれない」「悲しい、つらい、やりきれない……」「数々の悲劇の中で全成退場が一番泣いたかも」「このドラマで一番泣いた」「今までで一番泣いたし、今日もまた泣いている」「今までいっぱい『鎌倉殿の13人』で泣いたけど、一番泣いた」といった感想であふれた。

 以上、ここでは義経以外の3人の頼朝の弟の最期を振り返ってみたが、史実をベースにしながらも、脚本の三谷幸喜さんによって巧みに脚色された人間ドラマが浮かび上がってくる。特に全成と範頼の名前はより深く、大河ドラマファンの胸に刻まれたはずだ。

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