第157回直木賞を受賞した佐藤正午さんの小説を映画化した「月の満ち欠け」(廣木隆一監督、12月2日公開)。「もう一度会いたい」という強い思いが、時間も空間も超えた奇跡を描く本作で主演を務めた大泉洋さん(49)。「さまざまな出会いの積み重ねで、ここまできた」とこれまでの道のりを振り返る大泉さんに、人生の大きな節目を迎える率直な思いを聞いた。
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大泉さんが演じたのは、愛する妻と娘を事故で失った小山内堅(大泉さん)。ある日、堅の元に、三角哲彦(目黒蓮さん)と名乗る男がやって来る。三角によると、堅の妻と娘が事故に遭った日、堅の娘は面識のないはずの自分を訪ねようとしていたという。そして三角は、堅の娘と同じ「瑠璃」という名を持ち、自分がかつて愛した女性について語り出して……と展開していく。
脚本を読み、堅について「大変つらい役だなと思いました」と語る大泉さん。「撮影の2カ月間を生きるのがとてもしんどそうでしたが、それだけに終わらない脚本の魅力がありました。難しい脚本だけど、実に見事にバランス良く、いろいろな話が絡み合って成立している。悲しいけど、前向きになれるようなエピソードもありました」。
劇中では、20代から50代までを演じ、年を重ねた後の堅を表現するために体重を落として撮影に臨んだ。「若いころの堅は楽しく、幸せなので、私生活でもよく食べていました。むしろ多少太っていたいくらいだったので。撮影はなるべく順撮りにしてもらい、50代のころを演じる前には少し期間を空けてもらって。そこからは食事もあまり食べられなくなり、厳しい撮影でしたね」と振り返った。
廣木監督からは「堅の涙は一回だけあればいいと思っている」と言われたものの、撮影では「泣いてしまったシーンが多々ありました」と明かす大泉さん。
「妻と娘を失ってから、堅はずっと心にふたをして生きてきました。そこに突然、三角という男が現れて、ある意味、無理やり傷口を開かれているというか。見ないようにしていた過去を久しぶりに目にした堅を演じるのはつらかったですし、ついつい涙してしまいました」
しかし、「撮影にはストレスがなかった」という。
「廣木さんはあまり多くを語るタイプではなく、細かな指示もなかったのですが、とにかく演じやすかったですね。僕たちの気持ちが一番乗ったところを、うまく切り取ってくださっていた印象です。あとは、廣木さんの雰囲気だったり、現場の空気の作り方なのかな。のびのび芝居ができた撮影でした」
映画のテーマでもある「出会い」。大泉さんは「僕の両親や兄、妻、娘には、生まれ変わってもまた会いたい」と明かしつつ、「月並みですが『一期一会』という言葉があるように、さまざまな出会いの繰り返しで今の僕があるのかなと」と語る。
「大学時代には演劇を始めて、『TEAM NACS』という劇団の仲間にも出会い、それがあったから『水曜どうでしょう』の制作陣とも会えました。東京で仕事をするようになってからは、三谷幸喜さんと舞台の楽屋で偶然会ったり。さまざまな出会いの積み重ねで、ここまできたんだと思います」
そんな大泉さんは、出会った人との縁を大切にしている。「好きな人たちと離れたくない人間なもので、一度出会った人とはあまり別れることがないですね。気づけばずっと同じ人たちと仕事をしてきています」
50歳という人生の大きな節目を迎えようとしている大泉さん。これまでを振り返ってもらうと、「29歳の時に、『20代はもういいや』って思いましたね。20代ってどこか一人前じゃないような気もして、周りから20代って思われるのはもういいかなって。早く30代になっちゃいたいなと感じていました」と明かした。
いざ迎えた30代は多忙な日々で、目まぐるしく過ぎていった。40代でもその生活が続き、「正直なところ、もっとゆっくり仕事ができるかと思っていました」と思いを吐露する。
「30代は本当に忙しかったので、40代になったらもう少し落ち着いて、じっくり仕事をしていきたいと考えていました。しっかり休みも取って、インプットもしながらアウトプットもしていく。そんなふうにインタビューで答えたこともあったと思います。でも、全然そんな40代じゃなくて、毎年忙しさを更新していたような……。もちろんありがたいことですけどね。だから50代こそはもう少し楽に(笑い)。例えば一つ作品を終えたら、2カ月くらい休んだりとか、バランスが取れたらいいなと思います」
50歳は「めちゃくちゃかっこいい、どえらい渋い男になっているイメージでした」と明かすが、実際は正反対だという。「まさか今でもこんなにバカなことを考えているとは……。俺は50歳になってもバカなことをするし、バカな話をしてるのかって。自分の50歳像にはガッカリですよ(笑い)。NACSのメンバーとずっと一緒にいるから、ノリが当時から変わらないのかな。今でも『大人になったら』とか言っちゃうくらいですから、自分にはなかなか大人の感覚がないんでしょうね」と笑ってみせた。
「プライベートをもう少し充実させられたらなと。子供も大きくなって親離れもしていくと思うので、自分でモノを作るとか、なかなか踏み切れていなかったこともやっていけたら」と50代への思いを語る大泉さん。「やっぱりいつまでもいい仕事に出会いたい」と、役者としての純粋な思いも胸に、これからも歩みを進めていく。
ヘアメーク:西岡達也(Leinwand)、スタイリスト:九(Yolken)
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