おむすび:阪神・淡路大震災を真正面からリアルに描く第5週 制作統括&演出に聞く舞台裏

NHK連続テレビ小説「おむすび」の一場面(C)NHK
1 / 5
NHK連続テレビ小説「おむすび」の一場面(C)NHK

 俳優の橋本環奈さんが主演するNHKの連続テレビ小説(朝ドラ)「おむすび」(総合、月~土曜午前8時ほか)は10月28日から第5週に入る。週のタイトルにある「あの日のこと」とは1995(平成7)年1月17日の早朝に起こった阪神・淡路大震災のことを指す。結(橋本さん)はこのとき6歳。姉の歩(仲里依紗さん)は14歳という設定で、米田家はこのころ神戸で床屋を営んでいた。これまで震災を描いてきた朝ドラはいくつかあったが、「おむすび」ではNHKならではの丹念な取材を重ね、震災や避難所の様子をこれまでになくリアルに描く。制作陣の“本気”が感じられる阪神・淡路大震災周りのシーンについて、制作統括の宇佐川隆史さんと第5週の演出を担当した松木健祐さんに聞いた。

あなたにオススメ

 ◇被災者の気持ちは「100人いたら100通り」 「分かったふりをしない」がテーマ

 平成を描く上で、外せないのが阪神・淡路大震災だ。今作ではしっかりと真正面から描こうと方針を決め、取材や準備に時間をかけた。

 演出の松木さんは当時、福岡に住む小学生だった。「正直、テレビで見た阪神高速道路が倒れている映像などの記憶しかなく、そんな人間が向き合うのはちょっと申し訳ないなと思いながらやりました」と語る。

 松木さんは「震災に遭った人の気持ちはやっぱり被災者にしか分からない」「被災者が100人いたら100人のエピソードがあって、それぞれ感じ方が全く違う」と思い、戸惑いもあったが、「共通項を探っていくと、同じ被災者、同じ家族であってもその悲しみを簡単に分かち合うことはできなんだな」と分かり、それを「米田家に体現してもらった」という。

 松木さんが感慨深かったのは、「震災後に生まれた橋本さんが、震災のことを一生懸命悩みながら語ろうとする姿が、撮影をしていて胸を打たれました。一つ、ドラマをやる意味があるなと思いました」と思いをはせる。

 制作統括の宇佐川さんは当時、高校1年生だった。「予防接種を受けようと思って病院に行って、そこのテレビで、煙が上がっている映像を見た」という。

 「そのときは高校生で、大変なことが起きてるな、という印象でした。東日本大震災のときは、東京で実際に揺れを感じたんですけれど、何もできない自分もいて。どちらも傍観者でしかいられなかったからこそ、そんな自分に対して何かできないのかと思い、(阪神・淡路大震災から)30年という節目で、未来につなげられないかと考えました」

 震災を描くに当たって、宇佐川さんも「取材をいくらし尽くしても、被災者の方々の気持ちを全部は理解できない。本当に100通りの皆さんの思いがあります。ただ、『それでも寄り添いたい、理解したい』と思い続けることが大事だと思い、これまでやってきました。分かったふりをせず、分かろうとする歩みを止めないということが、テーマとして現場にはありました」と力強く語る。

 ◇当事者を現場に呼んで“囲み取材”? 避難所での生活をリアルに描く

 震災そのものの描写について、松木さんは「被災者の方たちにも見てもらうことを考えると、繊細な配慮は必要だろうなと感じ、字幕を出すなど意識して」演出したという。

 さらに今回、リアルに描いたのは避難所での被災者の生活だった。

 「当時、避難所の管理をしていた学校の先生や市役所の職員さん、地域のリーダーといった方たちに現場に来ていただいて、『このときは一体どういう状況だったのか』をスタッフが取り囲んでインタビューしまくりました。地震発生から3時間後の状況はどうでしたか? このときカーテンは開いてますか? ストーブはありましたか? 壁の貼り紙は? ガラスは落ちていましたか?など、時系列を追って一つずつ全部聞いていったんです」と明かす。

 取材で印象に残ったこととして、松木さんは「地震から割と早めに、避難所を自分たちの力でなんとかするんだって思いがすごく強くて、そこからの工夫と知恵にとても感動しました」と興奮気味に語る。

 「自分たちですぐルールを作ったり、食料を自分たちで集めたりと、支援が来る前にみんなが自分たちで動いていた、と。震災4日目、5日目にして、名簿を作ったり、部屋を土足禁止にしてダンボールを敷いて区分けしたりと、誰に何を言われるでもなく自分たちでやっていたというエピソードにとても感動したので、ドラマに入れております」

 ◇震災をきっかけに「やれることをやっておこう」と前向きになったキャストも

 避難所でおむすびを配る女性を演じた安藤千代子さんは、実際に神戸で被災し、「娘がボランティアの女性からおむすびをいただいた」体験があり、今回の出演に「運命を感じている」という人物。安藤さんは、今は神戸で震災の語り部をしたり、俳優や声優活動をしている。

 松木さんは「取材の序盤で安藤さんと知り合って。震災をきっかけに、今後このような日常が続くか分からないから、これまでやれなかったこと、やれることをやっておこうというマインドで、30代後半から演劇活動や声優活動をし始めたそうなんです。その前向きな姿勢を聞いて、すてきな人だなと思いました」といい、「脚本ができて、この役を誰にするかとなったときに、安藤さんの人柄を思い出したんです。ご縁みたいなものも感じました」と明かす。

 安藤さんは出演が決まり、「脚本を読んでいただいたときに、その当時のことを思い出して、すごく泣けてきますという話をされていました。その気持ちを大切にして演じてくださいとお話ししました」という。

 阪神・淡路大震災という物語の大きな転機となる出来事が描かれる第5週。その後の展開にどうつながっていくのか、見届けたい。

写真を見る全 5 枚

テレビ 最新記事