黒川文雄のサブカル黙示録:3Dテレビの考察 産業の期待と弱点

 4月21日、国内で初めての3D(三次元)テレビが発売されました。既に週刊誌や新聞の経済面は3Dテレビの経済効果に言及し、本年度だけで世界中で250万台の3Dテレビが出荷され、2013年には10倍の規模の、約2700万台に達するという調査会社の報告資料もあるようです。

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 モノの循環が行き渡り、消費が低迷する中、3Dテレビは従来になかった視聴体験ということで視聴側だけでなく、制作側の需要も大きく期待できるということもあり、新しいエンターテインメントという切り口のみならず、産業としての明るい展望がある……と書かれています。

 さて、新しいハードウエアが世に出たときに重要なことは、それがただのハコに終わらないということです。皆さんも、テレビゲーム機で経験済みでしょうが、ハードウエアはソフトがなければただのハコ。……それが宿命です。今回の3Dテレビでもその点がポイントです。では各社のポイントをちょっとだけ見てみましょう。

 先陣を切ったのはハリウッドに映像研究所を設立して早くからハリウッドを味方につけてきたパナソニックです。映画「アバター」を劇場公開のタイミングからイメージ映像として使い、3D=パナソニックというイメージ浸透を行ってきました。対するソニー陣営のポイントを握るのはPS3などのゲームコンテンツといわれています。ちょうどタイミング的にも「トルネ」がプチブレークしている中で、3Dゲームの早期投入が成功のポイントかもしれません。

 「アバター」がすごかったのは、映画の中でCGでその視点を作り出してしまったことでしょう。ですが、3Dの仮想現実は、手を伸ばして触りたくなるようなものの方が合っているのかもしれません。そう考えると、サッカーのワールドカップとか、格闘技といった放送よりも、エロチシズムな映像のほうが需要がある……という指摘は、冗談ではなさそうです。

 さて先日の飲み会の席で、今こそ3D化してほしい映像の候補としてリドリー・スコット監督の作品で、80年代のSFの名作「ブレードランナー」が挙がりました。冒頭、スピナーがネオンサインのきらめく街に飛来するシーンだけでもイマジネーションが膨らみます。まさに小説が現実になる……フィリップ・K・ディックの小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」の時代がリアルに来ました。

 しかし、3Dテレビにも弱点があります。それはまっすぐに見ないと3D効果が十分に発揮できないことです。映画館は固定されたシートで3Dグラスを装着し、感動を共有する空間ですから問題ありません。しかし、テレビの視聴スタイルはちょっと違いますよね? 3D効果を得るのに適切なモニターからの距離は1.5メートル以上。さらに目線の高さで見るのが理想で、ソファでゴロ寝をしたり、雑誌を読みながらの「ながら見」というわけにはいかないようです。それに家族全員で3Dを堪能するには追加で3Dグラスを購入(1個1万円ほど)する必要もありますし、視力への影響など許容範囲がなかなか難しいわけです。3Dテレビは、視聴スタイルを限定するため、まずは可処分所得の多い方に購入をいただき、僕を含む庶民派は、様子を見てからの購入でもいいのではないでしょうか。

 個人的には、米国のゲーム展示会「E3」で披露される「ニンテンドー3DS」に注目しています。グラスが不要という3D対応の新型携帯ゲーム機が台風の目玉になるかもしれません。

 ◇筆者プロフィル

くろかわ・ふみお=1960年、東京都生まれ。84年アポロン音楽工業(バンダイミュージック)入社。ギャガコミュニケーションズ、セガエンタープライゼス(現セガ)、デジキューブを経て、03年にデックスエンタテインメントを設立、社長に就任した。08年5月に退任。現在はブシロード副社長。音楽、映画、ゲーム業界などの表と裏を知りつくす。

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