山口智子:美しいものを作り出す“職人”にあこがれ 「自分の感覚に正直でありたい」

物作りに対するこだわりを語った山口智子さん
1 / 1
物作りに対するこだわりを語った山口智子さん

 女優の山口智子さんが、企画から編集まですべてにかかわった音楽・紀行番組「LISTEN1001(リッスンワンオーオーワン)」が29日から1カ月に1回、BS朝日で放送される。旅行好きの山口さんがハンガリーやトルコなど東西文化の交錯する場所を訪れ、心を動かされた“音”を、それに沿った美しい映像とともに送る良質なドキュメンタリー番組だ。この番組のように、山口さんは美しいものを作り出すことに強いこだわりを持っている。それは山口さんが週刊誌「アエラ」で連載していたコラムをまとめた書籍「掛けたくなる軸」(20日発売、朝日新聞出版)のために職人がものを生み出す現場を取材して、強いあこがれを感じたこととつながっている。「美しいものを生み出す職人さんは私にとってのスーパースター」と話す山口さんに、こだわりについて聞いた。(細田尚子/毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 山口さんは取材先で聞いた「伝統は革新の連続である」という江戸小紋の職人の言葉がいまだに心に残っているという。「その方は新しいことに挑戦していかなければ、本当の伝統は生まれないとおっしゃったんですね。つまり受け継がれているものを美術館のガラスケースに入れて奉っても伝統にはならないと。私も、ものを生み出す局面ではそういった職人精神でいたいと思います」と襟を正したという。

 「職人さんたちは消費者の手元に届くための期限があったり、さまざまな制約がある中で、どこまで最高のものを作れるかを追究している。使いやすいものにするためにそぎ落とし、究極の“幸せな形”を求めていく」、その“求道者”のような姿勢に感服した。そして受け取る側も「究極の形を感じる心、感覚も大事だと思うんです。手で持った瞬間に分かる手触りなど、自分の感覚に正直でありたいなと思いますね」と話す。

 「たとえば農薬を使わずに育った綿花で作られたコットン製品は、製品になっても綿花の細胞が呼吸を継続しているそうなんです。だから信じられないような心地よさで、私たちの細胞はそれを触ったり、腕を通した瞬間に分かるんです。この数字に表れない心地よさを感じる感覚を声を大にして伝えていきたい」といい、「音を感じる」という世界共通の感覚を伝えたいという思いから、今回の番組の企画に着手した。

 「番組に登場しているアーティストたちも(ジャンル分けすれば)伝統音楽といわれるものを演奏している人たちということになりますが、ただ受け継ぐだけでなく、今の時代にドキドキとときめくものだったり、さらに面白いと思えるものに変える勇気を持って挑んでいる方たちなんです」と、自分の感覚に正直に出演者を選び出したことに胸を張る。

 山口さんは感覚の中でも「嗅覚」にもこだわりを持っている。「旅先でパフュームをつけるようにしているんですけど、そうすると、同じ香りをかいだ瞬間に日記を書くよりも明確にその香りをかいだときの情景や周囲の雰囲気まで一瞬にしてよみがえってくるんです。嗅覚って本当に素晴らしいなと思います。これに限らず、人間の五感以上の“百感”を呼び覚ますきっかけになるものを制作していけたらなと思っています」と番組制作への思いを語った。

 次回は、番組に関連することすべてにかかわったという音楽・紀行番組「LISTEN1001」について、撮影のエピソードや番組に込めた思いなどを聞いた。

 <プロフィル>

 1964年10月20日生まれ、栃木県出身。88年、NHK連続テレビ小説「純ちゃんの応援歌」の主演で女優デビュー。89年に「同・級・生」、91年に「もう誰も愛さない」、92年に「子供が寝たあとで」、94年に「29歳のクリスマス」、95年に「王様のレストラン」など民放各局で出演した連続ドラマが立て続けにヒットし、「連ドラの女王」と呼ばれる。96年には「SMAP」の木村拓哉さんと共演した「ロングバケーション」が高視聴率を記録した。95年に俳優の唐沢寿明さんと結婚。最近は「ライラの冒険 黄金の羅針盤」(08年)の日本語吹き替え版やスタジオジブリの劇場版アニメ「崖の上のポニョ」(08年)に声優として参加する一方で、05~06年に「山口智子の旅シリーズ」、06年に「史上最大の女帝エカテリーナ 愛のエルミタージュ物語」、07年に「山口智子 手わざの細道」、10年に「okaeri 山口智子 美の巡礼」など教養ドキュメンタリー番組に出演。1月29日に初回を迎える、BS朝日で月1回放送の「LISTEN1001」(午後11時~11時25分)では企画から編集まですべてにかかわった。1月20日には連載をまとめた書籍「掛けたくなる軸」(朝日新聞出版)を発売。

テレビ 最新記事