ビム・ベンダースの最新作「パレルモ・シューティング」(08年)が、やっと日本で公開された。このところ米国でばかり製作していたが、久々に欧州に帰ってきて、故郷のドイツ・デュッセルドルフの景色を初めて映像に収めている。死にとりつかれた男のイタリア・パレルモの旅を、ベルベッド・アンダーグラウンドやニック・ケイブさんらのセンスのいい音楽に乗せてスリリングにつづっている。ベンダースの映画に酔い、見終わって「ほう~」っとため息が出た至福の出来。
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写真家のフィン(カンピーノさん)は仕事人間だ。常に人に囲まれ、携帯電話が手放せなくなっており、不眠気味。イヤホンから流れる音楽だけが心のよりどころだった。夜、車を運転していたフィンは、ナゾの男の姿を見たような気がして運転を誤り、あわや大事故を起こすところだった。そんなとき、フィンは撮影も兼ねてパレルモに旅に出ることにした……。そこで美術館の壁画を修復している魅力的な女性フラビア(ジョバンナ・メッゾジョルノさん)に出会う。
「アメリカの夜」(77年)以来30年ぶりにタッグを組んだ故デニス・ホッパーさんやミラ・ジョボビッチさん、ルー・リードさん……ベンダースらしいキャスティングにニヤリとさせられる。主人公フィン役のカンピーノさんは、ドイツの人気パンクバンド「ディー・トーテン・ホーゼン」のボーカルだそうだが、しわの多い味わい深い顔立ちがこれまたベンダースの世界にピッタリ。
昨年亡くなったホッパーさんが暗闇からぬっと出てくるシーンはリアルに怖い。しかも死を象徴した役で……。フィンの旅は死へのおそれとともにある。光が降り注ぐイメージのシチリアの州都パレルモの街並みは、フィンの心象風景として映し出され、歴史を感じる建築物、市場、海が不安な色を見せる。死への恐怖に打ち勝つには? 変化する世の中で、変わらない人間の生死を見つめる1作。ベンダース監督の死生観が表現された作品だ。吉祥寺バウスシアター(東京都武蔵野市)でレイトショー後、全国で順次公開。(キョーコ/毎日新聞デジタル)
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