黒川文雄のサブカル黙示録:新しいメディアと才能の誕生

 4人組ビジュアル系エアバンド「ゴールデンボンバー」が昨年のNHK紅白歌合戦に出場しました。大手レーベルの誘いを断るなどしたバンドが紅白出場という従来では考えられない流れです。かつて私がレコード流通の仕事をしていたときは、ライブ活動、インディーズCDを自費で作る、レコード会社や事務所が主催のコンテストで優勝するくらいしかメジャーデビューの入り口はありませんでした。かくいう私もミュージシャンを目指し、ヤマハのポプコン(ポピュラーミュージックコンテスト)用にデモテープを作って応募した苦い経験があります。しかし現在はインターネットの動画サイトにアップすれば、入り口だけでなく、出口も用意されているから、うらやましい限りです。

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 そんな音楽業界は、日本レコード協会などがインターネットの違法ダウンロード(DL)の取り締まりに力を入れていますが、ネットの普及とともにCDが売れなくなり市場規模が落ち込んでいるのは周知の事実です。そんな負の側面もあるインターネットですが、一方でバーチャルアイドル「初音ミク」や音楽クリエーターの「ボカロP」などを輩出しています。まさに表裏一体とはこのことでしょう。

 さて話は変わりますが、米アマゾンの「Kindle Fire」シリーズの登場などで注目を集めている電子書籍も、同様に新しい才能が生まれる素地を持っていると思います。

 インターネットが普及する前、出版社にはマンガ家志望者が作品の持ち込みをし、ゲーム業界では、メーカーから持ち込まれた新しい情報を基にライターがゲーム雑誌の紹介記事を書きました。マンガでデビューするには出版社の力なくしてはほぼ不可能で、ゲーム雑誌の記事の効果は絶大でした。情報にもヒエラルキー(階層制)は存在しているのです。

 ですが、インターネットの出現で、情報のヒエラルキーは薄まりつつあります。今はマンガ家や小説家の志望者が自らの作品をサイトに公開して声がかかり、プロデビューを果たす可能性のある時代です。また、ゲームの情報や攻略の情報の入手をネットだけで済ませる人も少なくないと思います。もちろん問題もあり、ネットに雑誌に掲載されたマンガなど他人の著作物を無断でアップする違法行為などはその典型例といえるでしょう。

 ですが、時代は変化や変革を迫っています。物ごとの善悪に関係なく、便利なもの面白いものへと流れていき、新しい流通手法やメディアが生まれると、呼応して新しい才能が生まれます。もちろん、電子書籍でも新しい作家や表現方法がこれから生まれてくると思います。外的な要因、業界が抱える矛盾や問題とシンクロして改革が起こるのは、歴史を見れば明らかで、新世代の才能や文化、秩序が今後、どんな形になっていくのかを楽しみにしています。

 ◇プロフィル

くろかわ・ふみお 1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、映画・映像ビジネス、ゲームソフトビジネス、オンラインコンテンツ、そしてカードゲームビジネスなどエンターテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。コラム執筆家。黒川メディアコンテンツ研究所所長。黒川塾主宰。2月28日には「黒川塾」第6回「フリーカルチャー@ゲーム」を開催予定。

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