黒川文雄のサブカル黙示録:日本映画で特撮大作ができない理由

「パシフィック・リム」の1シーン(C)2013 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.AND LEGENDARY PICTURES FUNDING,LCC
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「パシフィック・リム」の1シーン(C)2013 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.AND LEGENDARY PICTURES FUNDING,LCC

 今年はSFX系を駆使したアクション映画が数多く封切られましたが、特に話題になっているのは「パシフィック・リム」です。メキシコ人のギレルモ・デル・トロ監督が持っていたであろう日本のマンガやアニメ、怪獣映画への熱い思いを込めた作品に仕上がっています。日本の怪獣映画や、ロボットアニメなどでふんだんに使用された演出技法やせりふが多用されており、エンドロールには特撮映画の巨匠であった「レイ・ハリーハウゼンと本多猪四郎へ捧げる」というクレジットが記され、その思いを新たにさせます。

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 さて、このような作品が公開されると、「日本でも製作できないのか?」という声がよく聞かれるわけですが、それは不可能でしょう。理由は二つあります。

 一つは、製作費の問題です。今回の「パシフィック・リム」は180億円をかけたといわれています。一方、日本で特撮映画の平均的な製作費は20億円前後でしょう。例外として、2001年に公開された映画「ファイナルファンタジー」が150億円以上を費やしたことで知られています。ゲームムービーのクオリティーを飛躍的に向上させたのはもちろん、米国を巻き込んだ壮大な実験的映画としては評価すべきですが、興行的には失敗して、当時のスクウェア(現スクウェア・エニックス)は一時、会社の存続すら揺らぎかねない結果を招きました。

 もう一つの理由は、費用の使い道がないことです。これは私の個人的な意見ですが、日本には本格的なCGスタジオは存在しないと思っています。いや技術的にはできないことではないでしょうが、プロダクションデザインという演出から、舞台設定、大道具、小道具までの製作の経験の差はいかんともしがたい。つまり、どうやれば「パシフィック・リム」のような圧倒的な世界観を完成させられるのか?というナレッジ(知識)が不足しているのです。さらにいえばキャストが日本人だったり、ロケ地が国内のみだったら、世界中にセールスしづらいという理由もあります。いずれにせよ、少ない予算や技術でやってきたわけですから、仕方のないことなのです。

 特撮系邦画の予算を調べたところ「日本沈没(2006年版)」が20億円、「戦国自衛隊1549」が15億円、「GOEMON」が15億円、「海猿」が10億円程度ではないでしょうか。「仮面ライダー」はハッキリしないところもありますが3億~5億円でしょう。ちなみに同時期に公開された「ガッチャマン」は6億円程度と推測していますが、どこに使ったのかは”謎”という仕上がりでした。逆に、フルCGやフル英語ボイスにこだわった「ファイナルファンタジー」は、「頑張った」という評価を下すこともできます。しかし、“邦画の勝利の方程式”を求めるなら、アニメや国内向けの人間ドラマ、ホラーをテーマに製作する方向に落ち着くのです。

 とはいえ、ハリウッド映画ですが、「ローン・レンジャー」や「ホワイトハウス・ダウン」などの大作がコケています。確かに3本出して1本大当たりがあれば回収できるケースもありますが、相当なリスクを負うことは間違いありません。そう考えれば、日本映画は、身の丈にあった堅実なサイズともいえそうです。

 くろかわ・ふみお 1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、映画・映像ビジネス、ゲームソフトビジネス、オンラインコンテンツ、そしてカードゲームビジネスなどエンターテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。コラム執筆家。黒川メディアコンテンツ研究所・所長。黒川塾主宰。

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