明烏:福田雄一監督×主演・菅田将暉に聞く 菅田が思わず目をつぶる演技を福田監督が絶賛

「明烏(あけがらす)」について語った福田雄一監督(左)と菅田将暉さん
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「明烏(あけがらす)」について語った福田雄一監督(左)と菅田将暉さん

 「共喰い」(2013年)や「そこのみにて光輝く」(14年)、「海月姫」(14年)、「映画 暗殺教室」(15年)など出演作が続く菅田将暉さん主演の映画「明烏(あけがらす)」が公開中だ。1000万円の借金返済のめどが立たず、追い込まれていく菅田さん演じる指名ゼロの最下位ホスト、ナオキとその同僚たちの12時間を描くワンシチュエーションコメディーだ。

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 自身の脚本でメガホンをとったのは、自ら旗揚げした劇団の座長を務めながらテレビドラマ「勇者ヨシヒコ」(11年~)シリーズや「アオイホノオ」(14年)の演出、さらに映画「HK/変態仮面」(13年)の監督で知られる福田雄一さんだ。出演者には、菅田さんのほか、城田優さんや新井浩文さん、オーディションで福田監督が即決したという吉岡里帆さん、さらに福田組の“風神雷神”とうたわれるムロツヨシさんと佐藤二朗さんらが名を連ねている。「(共演者の)攻撃力が半端じゃなかった」という菅田さんと、「僕にとって幸せな映画でした」と語る福田監督が撮影を振り返った。

 ◇その場の空気がすべてを支配した現場

 新作ドラマの役作りのために、ヘアスタイルをマッシュルームカットで決めてインタビュー部屋に現れた菅田さんは、今回のナオキ役を演じるにあたり、「脚本通りに、ナオキが(周囲の人々に)振り回され、ただただあたふたしていくイメージ」で、「現場の雰囲気や(共演者の)仕草などに忠実に従っていく」ことを心掛けたと語る。その菅田さんの言葉を引き取るように福田監督は、「その場の空気がすべてを支配するような現場だったので、(役者)全員が臨機応変を求められる感じになっていたと思います」と話した上で、「これは、どれだけナオキがあたふたしようが、どう窮地に立たされようが周りはマイペースという話なので、菅田君はいわば一人踊りをしていなきゃいけない。だから何気に難しかったかもしれないですね」と菅田さんの役の難しさを語る。

 演技について福田監督は、菅田さんに「基本的にお任せ」だったそうだが、撮影は“順撮り”ではなかったため、2人の間で、「最初は(ナオキは)相当浮かれていますが、それがちょっとずつちょっとずついろんなことで首が締まっていって、最終的にどん底まで追い込まれるという流れが絶対的に必要でした。ですからその流れからだけは外れないようにしようね」と示し合わせたという。

 今作が「臨機応変」の演技の上に成り立っていることを証明する場面がある。それは、福田監督が「一番好きなカット」だという、同僚ホストのアオイ(城田さん)が、店の料金を支払えない女性客・明子(吉岡さん)に向かって、「返すあてもねえ金を使うって、人間として最低だ」と叫ぶシーンだ。「このとき菅田君がとった方法というのが、目をつぶるという。俺、あのカットになるたびに編集でめっちゃ笑っちゃうんですよ」と福田監督は破顔一笑する。それを横で聞いていた菅田さんは「たぶん僕はあのとき反射的にぐっとなった(目をつぶった)んです。まあ、あれだけ言われたらああなりますけどね(笑い)。みんなの攻撃力が半端じゃないから」と、当時の記憶をたぐり寄せながら証言する。ちなみに、菅田さんのお気に入りのシーンは、同僚ホスト、ノリオ(若葉竜也さん)とのくだりで、「あんなに熱い、本気で友情みたいになるとは思わなかったので、やっていてすごく燃えた」そうだ。

 ◇初対面でタメ口

 ところで、福田監督と菅田さんの“出会い”は、かれこれ5年前にさかのぼる。福田監督が脚本を担当し、菅田さんが出演した「高校デビュー」(11年)の舞台あいさつの時だ。福田監督はその時のことを「菅田君は覚えていないと思うんですけど」と前置きし話し始める。福田監督によると「初めまして、福田です」とあいさつしたところ、菅田さんは「ほぼ僕にタメ口」で、「うわっ、ノリのイイにいちゃんだな」と思ったと同時に、脳には「怖い関西の若い人」とインプットしたそうだ。その後、数年がたち、福田監督の「女子ーズ」(14年)などに出演し、菅田さんも仲のよい女優の高畑充希さんと食事に行くと、しばしば高畑さんから「菅田君がうっとうしいくらい福田さんのことを聞いてくる」と言われるようになったという。そのとき菅田さんと高畑さんは、NHK連続ドラマ「ごちそうさん」(13年)で共演中だった。しかしその話を聞いても福田監督は「あいつ、俺にタメ口だったんだよな(笑い)。俺に興味ないはずなんだけどな、といまいちピンとこなかった」という。

 一方、菅田さんはといえば、その後、福田監督の劇団の舞台に足しげく通うほどのファンになり、「遠目でずっと見ていた」のだという。菅田さんは「高校デビュー」の頃のことを、「何も覚えていない……」と申し訳なさそうにうつむき、「タメ口きいていたんですね……ちょっとうらやましいな、その頃の自分」とポツリ。そして、「“無知”って強いなと最近本当に思う」と年を取るごとに分別も増し、それに伴い、「石橋をどれだけたたいてから渡るんだ」というほど演技に慎重になりつつある自分にちょっぴり歯がゆさを感じている様子。そんな菅田さんに福田監督は、「芝居って年数を重ねれば重ねるほど慎重になっていくんだよね」と助け舟を出しながら、「でもその分、技術は確実に上がっていっている。本当にもう、こんなに頼りになる若手がいるものかと思うほど」と、菅田さんの演技力をたたえた。

 ◇見どころは「吉岡里帆」

 「2回見て、初めて面白いところがいっぱいある」「2回見ると全部合点がいったりする」と今作をアピールする福田監督。「菅田くんの適応力は主役として完璧だった」というが、見どころを聞くと、「それが一番困るんですよね…」と黙り込んでしまった。

 するとすかさず菅田さんが、「“吉岡里帆”じゃないですか(笑い)」と口をはさんだ。それに福田監督が、「確かに、吉岡里帆は一つの見どころですよね(笑い)」と同調する。菅田さんは「僕にとって今回の作品は新鮮でした。(福田監督が)映画っぽく“寄せて”くれたのかな、とすら思っていました」とコメント。これに福田監督は、「そんなことはないんだよ。たぶん菅田くんもそうだけど、僕の作品を見てくれて分かっている人達ばかりが集まったから、すべてがいろんな感じでうまくいったんだよね。で、分かっていないたったひとりの吉岡里帆がいて、この違和感たるや半端ないものがあり(笑い)、みんながちゃんと僕の台本を完璧に理解した上でやっているから、やりとりのボルテージの上がっていき方は半端なかった」と一気にたたみかける。

 しかし半面、福田監督は、編集するまでは「すごく怖かった」と打ち明ける。「こんなに地味なワンシチュエーションドラマはないですから。ホストクラブの中で展開しているならまだしも、地味な事務所というせまい空間でやっているので、どえらい閉塞(へいそく)感があったら嫌だなと思っていた」のだという。だが、そういった懸念も吹き飛ぶほど、「役者さんがあまりにも光り過ぎていてよかったなあと。ほんと僕にとっては幸せな映画でした」と感無量の様子だった。映画は16日から全国で公開中。

 <福田雄一監督のプロフィル>

 1968年生まれ、栃木県出身。90年に旗揚げした「劇団ブラボーカンパニー」の座長を務めながら劇作家、放送作家、ドラマ演出家、映画監督として幅広く活躍。主なドラマ作品に「勇者ヨシヒコ」シリーズ(11年~)、「アオイホノオ」(14年)、映画では「コドモ警察」「HK/変態仮面」(ともに13年)、「女子ーズ」(14年)など。舞台に「モンティ・パイソン」「39STEPS」などがある。小学生のとき、鴨川つばめさんのマンガ「マカロニほうれん荘」にはまったと語った。

 <菅田将暉さんのプロフィル>

 1993年生まれ、大阪府出身。2009年に「仮面ライダーW」で、シリーズ史上最年少ライダーとしてデビュー。映画に「共喰い」「そこのみにて光輝く」(ともに13年)、「闇金ウシジマくん Part2」「海月姫」(ともに14年)、「映画 暗殺教室」(15年)など。テレビドラマでは「泣くな、はらちゃん」「35歳の高校生」「ごちそうさん」(ともに13)などに出演。映画「ピース オブ ケイク」が9月公開。5月30日からNHKで放送がスタートする連続ドラマ「ちゃんぽん食べたか」では主演を務める。

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