母国イランを離れたクルド人監督バフマン・ゴバディさんの亡命後初の作品「サイの季節」が、11日から公開される。実在の詩人をモチーフに描いた大人の愛の三角関係の物語。マーティン・スコセッシ監督が称賛し「提供」として名を連ねている。ヒロインは「マレーナ」(2000年)で知られるモニカ・ベルッチさん。
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1977年、イラン・イスラム革命時。詩人のサヘル(カネル・シンドルクさん)は妻ミナ(ベルッチさん)とともに、運転手でミナに恋心を抱くアクバル(ユルマズ・エルドガンさん)によって、政治犯として不当に逮捕された。2009年。拷問にも耐え、30年の刑期を終えて釈放されたサヘル(ベヘルーズ・ボスギーさん)だったが、政府によって死んだとされていたことを知る。最愛の妻ミナを捜し始めたサヘルの前に、アクバルの影がつきまとう。夫が死んだと思い込まされたミナはトルコに移住していた……という展開。
圧倒的な強さと繊細さを併せ持つ美しい映像。黒が目立つ硬質な色調に、主人公サヘルの心の叫びが静かに、だが重くズシリと心に響いてくる。無実の罪で投獄されたサヘルは、詩人らしく心だけは過去と現在を自由に行き来させる。その内面を表す映像には、カメやサイが現れ、まるで夢の中のようだ。若かりし頃、美しい妻ミナとの幸せな日々……。夫婦仲むつまじい姿に、アクバルが嫉妬心を燃やすのも無理はないと思えるほどだ。しかしその嫉妬心はあまりにも邪悪だった。サヘルとミナを引き裂いただけでは済まなかった。さらなる残酷な展開がサヘルに突きつけられて、複雑な気分にさせられる。サヘルは、捜し当てた妻を遠くからじっと見守る。緊張感はやがてサヘルの漠然とした心象になって、亡命した末、イスタンブールに落ち着いたゴバディ監督の戻るところを失った心象と重なっているようだ。幸せを他人に奪われた人間は、亡霊のように生きるしかないのか。ベルッチさんの黒い瞳が美しく、悲劇を際立たせる。主人公サヘルを演じたボスギーさんは、イラン革命後に亡命した伝説のイラン人俳優だという。今作でスクリーン復帰を果たしたが、圧倒的な存在感だ。シネマート新宿(東京都新宿区)ほかで11日から公開。(文・キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。今作のイスタンブール、猫がいっぱいのシーンがチラッと出てきます。
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