注目ドラマ紹介:「火花」 ピース又吉の芥川賞受賞作を実写化 万感胸に迫る人生賛歌

Netflixのドラマ「火花」のワンシーン (C)2016YDクリエイション
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Netflixのドラマ「火花」のワンシーン (C)2016YDクリエイション

 お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹さんが執筆し、昨年の第153回芥川賞を受賞したベストセラー小説を実写化した「火花」(廣木隆一総監督)が、動画配信サービス「Netflix(ネットフリックス)」のオリジナルドラマとして配信中だ。師弟関係を結んだ売れない2人の芸人の約10年間を、全10話(各話50~60分)にわたって描いている。主人公・徳永に俳優の林遣都さんが扮(ふん)し、徳永が師とあがめる先輩芸人・神谷を、波岡一喜さんが演じている。500分を超える“超長尺”ながら、少しずつ関係が変化していく徳永と神谷をつぶさに追うことで、万感胸に迫る人生賛歌に仕上がっている。

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 山下(好井まさおさん)とお笑いコンビを組む、売れない芸人の徳永(林さん)は、営業先で知り合った先輩芸人の神谷(波岡さん)に強く引かれ、弟子入りを申し出る。神谷は、自分の伝記を書くことを条件に、徳永を受け入れる。こうして2人の師弟関係は始まり、徳永は神谷から笑いの哲学を吸収していく。ところが、徳永が少しずつ売れていくに従い、相変わらずの生活を続ける神谷との関係に変化が生まれ……という展開。

 主人公の心情を丹念につづった原作をほぼ忠実になぞり、大事件が起きるわけでも、派手な見せ場があるわけでもない。しかし、映像化ならではの醍醐味(だいごみ)を実感させられることはしばしばあった。例えばそれは、第1話の、花火が大輪の花を咲かせるなか、「地獄!地獄!」と観客に向かって叫ぶ神谷を、徳永がほうけたように見つめる場面。あるいは9話の、徳永と美容師・あゆみ(徳永えりさん)の歩道橋越しの別れの場面。いずれも小説では何気なく読んでいたが、映像では印象的なシーンとなった。折に触れ挿入される林さんと好井さんの漫才シーンもしかり。

 全10話を演出したのは、廣木監督(1、9、10話)、毛利安孝監督(2話)、白石和彌監督(3、4話)、沖田修一監督(5、6話)、久万真路監督(7、8話)の5人。「ヴァイブレータ」(2003年)などで知られる廣木監督の、人物をじっくりととらえる長回し、「モヒカン故郷に帰る」(15年)の沖田監督による、モノクロ映像やフランス語を使った遊び心にあふれる味付け、「凶悪」(13年)の白石監督が、神谷の同棲相手・真樹(門脇麦さん)の部屋で見せた、意外にも(?)ほほ笑ましい演出など、それぞれの持ち味が盛り込まれたことで、1本の超長編にメリハリがついた。必ずしもハッピーエンドではない今作だが、原作の言葉を借りれば、「生きている限り、バッドエンドはない」と説く。ラストショットの熱海の夜景が心にしみた。3日からNetflixで配信中。 (りんたいこ/フリーライター)

 <プロフィル>

 りん・たいこ=教育雑誌、編集プロダクションを経てフリーのライターに。映画にまつわる仕事を中心に活動中。大好きな映画はいまだに「ビッグ・ウェンズデー」(1978年)と「恋におちて」(84年)。

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