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こち亀:40年間支持された理由 時代に合わせて柔軟に変化

アニメ マンガ
「こちら葛飾区亀有公園前派出所」200巻の特装版

 「週刊少年ジャンプ」を代表する人気マンガで「こち亀」の愛称で親しまれる「こちら葛飾区亀有公園前派出所」が17日に最終回を迎えた。3日に神田明神で「こち亀絵巻」の奉納を済ませた後、作者の秋本治さん自ら発表する異例の形で、テレビや新聞のニュースとして取り上げられるなど話題となった。週刊少年ジャンプという“激戦区”で、「こち亀」はなぜ連載を続けられたのかを分析した。

 「こち亀」の本当に驚くべき点は、「連載が1回も休載せずに40年も続いたこと」だ。総じて「ギャグマンガは短命」といわれ、国民的マンガ家の一人・赤塚不二夫さんの代表作「天才バカボン」も十数年で1度完結している。「こち亀」と同じジャンプマンガの「Dr.スランプ」も約4年。いずれも超人気作であり、「ギャグに必要な体力」の問題だったのかもしれない。

 しかしなぜ「こち亀」は40年も続いたのか。一つは「時代に合わせて変化した」ことだ。連載スタート当時、「こち亀」は主役の両さんこと両津勘吉は天丼を盗み食いした猫に銃を乱射し、道を聞く民間人を怒って追い返す荒くれ者だった。

 本作も秋本さんも、当時のジャンプの中では「新人」に過ぎなかったから、「ドーベルマン刑事」など豪快な連載誌のカラーに合わせたのだろう。それが、60巻以降はめっきりソフトになった。21世紀に入ってからは、銃を発砲しているコマを見つけるほうが難しい。

 ただ丸くなっただけなら刺激的な連載陣の中で埋没していたはずだが、「こち亀」には「過密な情報量」という武器があった。両さんの同僚である中川巡査は自動車のコレクターのため、初期は迫力あるカーチェイスも当たり前で、描写も緻密(ちみつ)だった。飛行機や戦車などメカの登場もとても多かったが、キャラの線さえ簡略化して作画にかかる労力を抑える傾向のあるギャグマンガの中では異例なことだ。

 こうした情報量の詰め込みは、やがて「ホビー」の分野に向けられた。サバイバルゲームなどアウトドアから切手やフィギュア、そしてゲームやパソコンといったインドアに移行し、果ては「艦これ」などの紹介もするにいたる。その道のりは、ジャンプ本誌の「ホビー化」とも一致している。

 情報量の多さは、投入されたアイデアの豊富さであり、創造されたサブキャラクターの豊かさでもある。シリアスながら抜けたところもある星逃田や、世界の戦場を渡り歩いたために日常でも重火器を持ち歩くボルボ西郷、超エリートだが顔の怖い凄苦残念(旧名・法条正義)。これら濃い顔ぶれが「たまに出る」に過ぎない層のぶ厚さだ。

 さらに、この中でキャラの「選抜」も行われている。初期の中川は第1話に出てきたあとしばらく出ない「単発キャラ」だったが、後にレギュラーに抜てき。逆に両津の良き相棒だった戸塚はガラが悪かったせいか、途中から消えてしまった。それにネットやPC話があるたびに出てくるハイテク一家「電極家」など、テーマごとの面々もおおむね決まっている。豊富なキャラの投入ないし整理により、時代に合わせて作風をチューニングしてきたのだ。

情報量・アイデア・キャラクターを「リソース(資産)」として管理とすれば、ギャグの続く中に織り交ぜられる人情噺(ばなし)という「ストーリー管理」もうまい。両さんが「乱暴者」から長期連載にふさわしい好感が持てる主役になれたのも、困っている人を助けたり下町の人々との交流があったからだ。しかも柔らかい話のクッションを置くことで、ギャグが過激にインフレすることへの歯止めもかけられた。両さんが子供時代の懐かしいエピソードは、「こち亀」に東京の郷土史という深みさえ与えている。

 キャラクターとストーリーの掛け合わせは、やがて「女性キャラクターの充実」というかたちでも表れた。マリアや早矢らヒロインたちは女性キャラに活躍の場を増やしたし、両さんの新たな面も引き出して奥行きを加えたのだ。

 そうした方向の到達点の一つが「擬宝珠(ぎぼし)家」の人々だ。両さんと結婚話まで持ち上がった纏(まとい)、その妹で幼稚園児の檸檬(れもん)、祖母で一家を束ねる夏春都(げぱると)。気ままな独身を続ける両さんを「(擬似)家族ドラマ」の中に置き、古参ファンの間で賛否はあったが、宇宙から天国までなんでもありの「こち亀」の幅をさらに広げていた。

 「こち亀」がただギャグだけに徹していたなら、とっくに作品の寿命は尽きていたはずだ。日常を破壊する爽快(そうかい)感や豊富な雑学ネタ、ハイテクやホビー、人情噺や家族といった要素を貪欲に取り込み、「長期連載に耐えうるシステム」を作り上げていったから、マンガ家志望者が殺到する「週刊少年ジャンプ」という苛烈な“戦場”で40年もの歳月、ゆうに親子2世代を超えた支持を勝ち得たのだ。

 「こち亀」は200巻で一応のピリオドを打つが、これら200巻は「長期連載するノウハウ」が詰まった宝庫であり、マンガの教科書だ。今後もジャンプやそれ以外のマンガに「こち亀」の遺伝子は受け継がれ、「両津勘吉」は生き続けるだろう。(多根清史/アニメ・マンガ批評家)

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