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黒沢清監督:幽霊には西洋型と日本型がある… ホラー映画の巨匠が語る「生と死」

映画
初の海外進出作品「ダゲレオタイプの女」について語った黒沢清監督

 第68回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した「岸辺の旅」(2015年)などで知られる黒沢清監督が、初めて海外進出を果たした作品「ダゲレオタイプの女」が公開中だ。フランスでロケを行ったフランス語によるオリジナル作。世界最古の写真撮影方法「ダゲレオタイプ」を中心に据え、ホラーとラブストーリーを組み合わせたミステリアスな作品だ。愛から生まれる悲劇をクラシカルな映像に焼き付けている。今作について、黒沢清監督に話を聞いた。

 ◇怪しげな屋敷に怪しげな装置が…

 「CURE キュア」(1997年)以降、すべての作品がフランスで上映され、現地で高い評価とコアなファンを持つ黒沢監督。11年ごろ、プロデューサーの吉武美知子さんから「海外で撮影をしないか」という提案があり、オリジナルの脚本作りが始動したという。

 「怪しげな屋敷に怪しげな装置があって……というところから発想していきました。過去に東京写真美術館でダゲレオタイプの写真を見たとき、その脇にあった人体固定器具に興味が湧いたのがきっかけです。こんなことやってたんだ。これ、映画に使えそうって」ときっかけを明かす。

 ダゲレオタイプはフランスが発祥。映画の中では、大人の男性の背丈ほどもある大型カメラが登場し、モデルを支えるごつい拘束器具とともに異様な雰囲気を放っている。カメラと拘束器具は大きさを重視して、オリジナルで作ったという。「大きなカメラと拘束器具は、ゴシックホラーのにぎやかしの要素です。実際に大きなものが使われていた資料もありましたが、残念ながら現存していなかったので作りました。後半、1カ所だけ、老人を支えている器具は本物です。アンティーク趣味として所持しているコレクターの間で結構出回っていたので、すぐに手に入りました」と話す。

 物語の軸には、写真家のステファン(オリビエ・グルメさん)の、エゴイスティックな愛情がある。妻や娘を写真に収めることで、彼女たちに永遠の命を与えたと思い込んでいる。ステファンの元で助手として働き出した若いジャン(タハール・ラヒムさん)は、モデルを務める娘のマリー(コンスタンス・ルソーさん)に引かれていく。マリーはエゴイスティックな父親から逃れて、植物園で働く夢を持っていた。ステファンは亡くなった妻の幻影に次第に脅かされていく。

 ◇初心に戻った幽霊の描写

 亡くなった夫と妻が普通に暮らす「岸辺の旅」にも通じる作品だが、今回はホラー要素が高いものになった。黒沢監督は「『岸辺の旅』よりも前に脚本作りを始めて、終わってから、もっと幽霊の描写を初心に戻したというか、幽霊っぽい描写を強めるよう書き換えました」と語る。

 二通りの幽霊を登場させたことがポイントだという。「ステファンの妻は、屋敷に住みついていて、異様な思いに憑(と)りつかれた西洋型の幽霊。一方、生きていたのに途中で死者になる、日本の怪談にならった幽霊も出てきます。近年の日本のホラー映画にもあまり出てこない。例えば『貞子』も西洋型の幽霊なんです。日本の怪談に出てくる幽霊は、生きた者と関係が築けて、いろいろなアプローチができるし、たくさんの物語が生み出せるんですよ」と豊富な知識を用いて説明する。

 俳優もスタッフも日本式の幽霊話を表現してみたいと意欲満々だったそう。主要3役のキャスティングは、黒沢監督が直々にオファーした。フランス映画でおなじみの面々が、日本的な「間」で恐怖や不安を演じている。「最初は日本的なホラーや『間』をみんなが理解できるのだろうか、と思いましたが、びっくりするほど伝わった」と黒沢監督は笑顔で答える。

 黒沢監督は「みんな僕の過去の作品を事前に見て参考にしてくれていました。フランス映画とは違った表現を一度はやってみたかったんだ、と楽しんでくれました」と喜ぶ。

 ◇「死は幻」という実感をせりふに乗せて

 特に狂乱するステファン役のグルメさんが印象に残る。「息子のまなざし」(02年)などジャン・ピエール&リュック・ダルデンヌ監督の作品でおなじみの俳優で、「普通のパン屋のおじさんからエキセントリックな役柄まで演じられる」と黒沢監督は言い、「いかにもマッドな人物という印象にならず、リアルさが出せた。思いっきり演じてくれた」と満足げな様子。「女っ気なし」(11年)で注目を浴び、今作で娘のマリーを演じたルソーさんについても「知る人ぞ知る女優だけど大収穫だった」と力を込める。「岸辺の旅」でも表現されていた生死の曖昧さがマリーの役の中にも描かれ、怪しげな魅力を放っている。

 「生きているのかもしれないし、死んでいるのかもしれないという境目のなさ。それこそ、僕がやりたかったところです。ホラー映画をたくさん撮ってきますと、生きている今と死が、おそらくつながっているんだと思えてならない。たぶん、僕自身に亡くなった知り合いが増えているからかもしれません。『死』の前でジタバタする必要はないんじゃないかと自然に思えます。劇中、撮影に来た老婆に『死は幻ですから』と、この年になって僕が実感していることをポソッと言わせています。日本ではためらわれるせりふかもしれないけど、フランス語で言えばそれらしく聞こえる。字幕の威力ってすごいですね(笑い)」と喜色満面で語った。

 「ダゲレオタイプの女」は、ラヒムさん、ルソーさん、グルメさん、マチュー・アマルリックさん、マリック・ジディさんらが出演。ヒューマントラストシネマ有楽町(東京都千代田区)ほかで公開中。

 <プロフィル>

 1955年生まれ。「CURE キュア」(97年)で世界的な注目を集め、海外映画祭から招待が相次ぐ。「回路」(2001年)で第54回カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞。「アカルイミライ」(03年)、「ドッペルゲンガー」(03年)、「LOFT ロフト」(06年)など国内外で高い評価を受ける。「トウキョウソナタ」(08年)で第61回カンヌ国際映画祭ある視点部門審査員賞と第3回アジア・フィルム・アワード作品賞を受賞。「Seventh Code セブンス・コード」(13年)で第8回ローマ映画祭最優秀監督賞を受賞。「岸辺の旅」(15年)で第68回カンヌ国際映画祭ある視点部門監督賞と第33回川喜多賞を受賞。「クリーピー 偽りの隣人」(16年)が6月に公開された。 

 (取材・文・撮影:キョーコ/フリーライター)

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