dele:“浅はかな正解”は提示しない… 山田孝之&菅田将暉ドラマは現代版「羅生門」?

連続ドラマ「dele」でダブル主演する山田孝之さん(右)と菅田将暉さん
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連続ドラマ「dele」でダブル主演する山田孝之さん(右)と菅田将暉さん

 俳優の山田孝之さんと菅田将暉さんがダブル主演する連続ドラマ「dele(ディーリー)」(テレビ朝日系)。ダブル主演の2人をはじめ、ゲスト俳優陣や脚本を手がける作家陣の豪華さに加え、“デジタル遺品”を巡って描かれる人間ドラマの深みや、“真相”が明確にされないストーリーなどが話題を呼んでいる。番組を担当する山田兼司プロデューサーは、海外ドラマのレベルの高さに悔しさを感じていたといい、「日本でも、人間描写の深みや表現の成熟度といった面で世界レベルのクオリティーの連続ドラマをいつか作りたいと思っていた」と語る。今作にかける思いやドラマ作りへのこだわり、制作の裏側を聞いた。

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 ◇“デジタル遺品”に感じた連続ドラマとしての可能性

 ドラマは、所有者の死後にパソコンやスマートフォンに残されたデータ“デジタル遺品”がテーマ。依頼人の依頼を受け、死後に不都合なデジタル記録をすべて内密に抹消する仕事をしている坂上圭司(山田さん)と、フリーランスの何でも屋で、ひょんなことから坂上の仕事を手伝うようになる真柴祐太郎(菅田さん)を主人公に、デジタル遺品を巡る1話完結型の人間ドラマを描いている。毎週金曜午後11時15分に放送(一部地域を除く)。

 今回の企画は、山田プロデューサーが連続ドラマ「BORDER」でタッグを組んだ作家の金城一紀さんからの紹介で、作家の本多孝好さんと出会ったことから始まった。山田プロデューサーは「本多さんから、映像化前提の連続ドラマの企画を作ってみたいというお話をいただいて、見せていただいたのが『dele』の企画でした。その時点では企画の骨子の状態で、デジタル遺品というテーマ、圭司と祐太郎のキャラクターのイメージがあった。デジタル遺品は、今を生きている人全てに共通するような極めて現代的なテーマであり、連続ドラマとしてすごく可能性のある企画だと思いました」と振り返る。

 ◇山田孝之&菅田将暉の主演実現が「挑戦を強いた」

 山田プロデューサーと本多さんが、ドラマを一緒に作り上げていく中で最も大切にしたのが、圭司と祐太郎のキャスティングだった。「本多さんと意見をぶつけ合い、真っ先に挙がったのが圭司役で山田孝之さん、祐太郎役で菅田将暉さんの名前でした。この組み合わせは誰が聞いてもワクワクする。そう簡単にはいかないだろうと思いながらも、2人にオファーしたら、前向きなお返事をいただいたんです」と話す。

 山田プロデューサーは、この2人のキャスティングが決まったことが「プロデューサーとしての僕に挑戦を強いた」と明かす。以前から山田プロデューサーと金城さんは、海外で「とんでもないレベルのドラマ」が作られていることに悔しさを感じていたといい、「日本でも、人間描写の深みや表現の成熟度といった面で世界レベルのクオリティーの連続ドラマをいつか作りたいと思っていたんです」と思いを語る。

 デジタル遺品というテーマに「依頼人の数だけ多様なジャンルの物語が作れる」と可能性を感じた山田プロデューサーは、最初の段階で1話完結にすることを決めていた。そこから、作家陣にオファーし、個別にストーリーを練り上げていった。「作家性の強い方々が集まるとドラマが壊れてしまう可能性も高い。ただ、山田さんと菅田さんが演じてくれるのなら、そこに踏み込んで挑戦したいと思った」と語る。

 ◇“浅はかな正解”は提示しない 黒澤明の「羅生門」との共通点

 複数の作家陣とやりとりをする中で山田プロデューサーが軸としたのは、「1人の人間にはいろいろな顔がある」という人間の多面性だった。さらに「依頼人の数だけ人生がある。毎回毎回が『羅生門だな』と思ったんです」と語る。「羅生門」とは、黒澤明監督の映画で、1人の人間の死に対して、目撃者や関係者がそれぞれ食い違った証言をする姿を描き出し、ベネチア国際映画祭の金獅子賞にも輝いた1950年公開の名作のことだ。

 山田プロデューサーは「最終的に何が本当だったのか分からない。だからこそ、『羅生門』は世界を席巻した。『dele』も毎回依頼人が残したデジタル遺品に対して、圭司や祐太郎、遺族などがそれぞれに違った見方をする。多様な人生の見え方を全部提示した上で、視聴者の皆さんに人生のリアリズムを短編映画のように味わってもらいたい」と思いを語る。

 確かに劇中では依頼人の思いを明確に示す“真相”が明かされることはない。また、一般的に、死者が登場する作品では回想シーンが使われることが多いが、「dele」では「真相を示す回想シーンを安易に使わない」工夫もしているという。「依頼人が『どんな人生だったか』というのは、この物語を動かす一番のミステリー。回想シーンは、その魅力を半減させてしまうリスクもあるので、基本的に回想に頼る描写はしなかった」と明かす。

 さらに「ドラマ側が浅はかな正解を提示するようなドラマにはしたくなかった。話ごとに考えさせられたり、もう一度見返してみたいと思ったり、何度も楽しんでもらえるような作品にしたかった」と語り、「脚本を手がける作家さんによって、ミステリーの要素が強かったり、人情ドラマの要素が強かったり、いろいろなエンタメのジャンルの面白さを詰め込んでいる。毎話、違った形の『羅生門』を作りたかった」と力を込める。今後どんな人間の深みが描き出されるのか、大いに注目だ。

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