女優の戸田恵梨香さんと大原櫻子さんのダブル主演映画「あの日のオルガン」(平松恵美子監督)が22日から公開されている。第二次世界大戦末期、幼い園児と保母たちが集団で疎開した「疎開保育園」の実話に基づいた物語。戸田さんが保育所の主任保母・板倉楓、大原さんが保母の野々宮光枝を演じている。戸田さんと大原さんに、それぞれの役作りや共演の感想などを聞いた。
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原作は久保つぎこさんのノンフィクション「あの日のオルガン 疎開保育園物語」(朝日新聞出版)。警報が鳴っては防空壕(ごう)へ避難する生活が続く1944(昭和19)年、東京都品川区の戸越保育所では、楓や光枝ら保育士たちが保育所の疎開を模索。幼い園児たちを手放す不安、空襲から子供たちだけでも助けたいと、意見の分かれる親たちを保母たちが必死に説得する中、埼玉に受け入れ先の寺が見付かる。やがて、疎開生活を始めた若い保母らと園児たちに、空襲の影が迫る……というストーリー。佐久間由衣さん、堀田真由さん、福地桃子さん、林家正蔵さん、夏川結衣さん、お笑いコンビ「ココリコ」の田中直樹さん、橋爪功さんらも出演している。
撮影に入るにあたり、その時代の映画を見て役を作っていったという戸田さん。「原節子さんをイメージして。あの当時の作品をいろいろ見て、取り入れられることは取り入れて。現代に生きる私たちならではのものって何かな、と作品に入ったんです」と説明する。兵庫県出身の戸田さんは、阪神淡路大震災の記憶があり、撮影でも「その経験をした時に目にしたもの……赤い空や、子供たちやお母さんお父さんが泣き叫ぶ声が記憶に残っているので、そういうことを思い返しながら現場に入りました」と語る。
戸田さんと大原さんは保育園の実習にも参加したという。大原さんは「先生の体験をしたんですけど、光枝は保母さんだけど、異色なんです。能天気なところがあるというか(笑い)。だから深く掘り下げるというよりは、どうしたら光枝のように、子供たちと同じ目線に立てるかを考えながら撮影に入っていました」と明かす。
撮影期間は、「当時の作品を見過ぎて(笑い)、脳内がそっち側に行く部分があった」と苦笑する戸田さん。若い女優たちと、演劇的な橋爪さんたちベテラン陣とでは芝居の質が「ちょっと違う」といい、「私自身、上の人たちと下の人たちの中間に立っていたんです、楓先生と同じ中立の立場で。橋爪さんたちがするお芝居の流派と、若い人たちの流派は全く異なるものだったので、どっちに寄せればいいのか、ずっと迷い続けていました」と葛藤を明かす。「ただ『真ん中に立つべきだな』と途中で(答えが)見付かったので『こっち側に立つ時はこっち側の芝居』と分けながらお芝居していました。そこが難しかった点で、一番意識していたところです」と語る。
では、普段はどのような芝居を心掛けているのか。戸田さんは自らを「基本的には理屈タイプなんです」と捉えているという。「すごく考えて(現場に)行くんですけど、現場に立ったらそれを一度置いて、そこで感じるものを大事にするようにしています。理屈の部分に感情がどんどん乗っていくというか、深くなっていくというか……そういう感覚を大事にしていますね。それでどんどん軌道修正して、すき間なく埋めていくという感じです」と説明する。
保母たちのリーダーという立場上、厳しい面を表に出す楓とは対照的に、大原さん演じる光枝はほのぼのとしていて、失敗もするキャラクター。大原さんは「光枝ってすごく現代的な人物。観客が光枝に共感できるところもあるんじゃないかなと思いました」としつつ、「そこを意識し過ぎると作品のメッセージ性が軽くなっちゃうんじゃないかという不安があって……。どこまで子供たちとふざけようかとか、天真らんまん過ぎて『それじゃ保母さんの仕事成り立たないだろ』とツッコまれたらどうしようとか(笑い)、そんなことを思っていました」と明かす。
ただ、「子供の笑顔を引き出すためにはどうしたらいいんだろうってすごく悩んで、考えていた時に、『シンプルに子供たちを愛せばいいんだな』と。当たり前だけど、その答えが見付かった時に、じゃあどう演じたらいいんだろうとか、保母って思われなかったらどうしようとか、そういうことが全部解決しました」と笑顔を見せる。
ダブル主演の2人にそれぞれ、共演した感想を聞くと「さくちゃん(大原さん)はみっちゃん(光枝)みたいにすごく感受性が豊かで、すごく素直な人なんだなって思いました」と戸田さん。「一緒にお芝居しているけど、お芝居している感覚が全くなくて、すごくスッと入ってくる人だな、という印象を受けました」という。「『大恋愛』(ムロツヨシさんと共演したドラマ『大恋愛~僕を忘れる君と』)の時は、そういう感覚でやっていました。芝居の感覚がない状態。でも、それまではどこか、悩みながらやっていたし、『あの日のオルガン』は私自身もすごく頭を使って、感情ではなく理屈を優先して現場に入っていたので、(大原さんに)ドキッとさせられました」と明かす。
一方、大原さんは「戸田さんとの掛け合いは(いつも)怒られているか……」と苦笑。劇中では光枝が楓から怒られ、平手打ちされるシーンもあり「はじめてビンタされたんですよ、人から」と笑い、戸田さんも「あれ緊張したよね」とほほ笑む。
大原さんは「私の性格も役もそうなんですけど、人に対して、エネルギーをわっと出すというか、前に出す感じなんですけど、戸田さんは全部優しく受け取ってくれている感じがしていた」と振り返り、「楓さんの優しさももちろんあるんですけど、目を見ていなくても、受けた分のエネルギーが返ってくるという感覚がありました。お芝居を受け止めてくださっているなという、キャッチボールのキャッチがすごく温かい感覚がありましたね」と語る。
改めて、作品についての思いを聞くと、戸田さんは「ただ重い作品にはしたくないなと思っていました」といい、「戦争を題材にはしているけど、現代につながる、時代を超えて伝えられるものがあるなと思います。今なら、戦争ってなかなか日本では感じられないものですけど、たとえば地震とか、『今という日常がなくなる瞬間』は平等にある。幅広い世代に共感してもらえる、いろいろなものを感じてもらえる作品になると思いました」と語ってくれた。
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