テセウスの船:「考察」ブームが過熱 SNS時代のミステリーの描き方

連続ドラマ「テセウスの船」の出演者たち この中に“黒幕”が? (C)TBS
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連続ドラマ「テセウスの船」の出演者たち この中に“黒幕”が? (C)TBS

 竹内涼真さん演じる主人公・田村心が、タイムスリップした過去で無差別殺人事件の謎を追う姿を描く連続ドラマ「日曜劇場 テセウスの船」(TBS系、日曜午後9時)。3月8日放送の第8話の平均視聴率は15.3%で、ヒットドラマの目安となる15%を突破した。視聴者をひきつける脚本、竹内さん、鈴木亮平さんらキャストの熱演、魅力的な音楽、と三拍子そろい、「今クールナンバーワンドラマ」という声もあがっている。第8話では、事件の犯人がみきお(安藤政信さん、柴崎楓雅さん)のほかに“黒幕”がいることが分かり、SNSでは考察がさらに盛り上がりを見せている。ドラマを手がけるプロデューサーの渡辺良介さんに、SNS時代のミステリーの描き方について聞いた。

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 ◇「あな番」に続き、考察がブーム

 視聴者を熱中させたドラマの「考察」といえば、昨年放送された、俳優の田中圭さん、女優の原田知世さんがダブル主演した連続ドラマ「あなたの番です(あな番)」(日本テレビ系)が記憶に新しい。「交換殺人」が題材で、田中さんと原田さん演じる新婚夫婦が、引っ越し先の分譲マンションで起きた連続殺人の謎に挑む姿が描かれるミステリー。SNSを中心に「犯人は誰か」という考察が過熱した。

 現在放送中の「テセウスの船」は、マンガ誌「モーニング」(講談社)で連載された東元俊哉さんの同名マンガが原作。主人公の田村心が31年前にタイムスリップし、冤罪(えんざい)で死刑判決を受けた、父で警察官の佐野文吾(鈴木さん)が逮捕された「音臼小無差別殺人事件」の謎を追い、真犯人を捜す……というストーリーだ。

 初回放送時から「全員、怪しすぎる!」「犯人が全然、分からない」と注目を集め、SNSでは考察が激化。第2話で描かれた、“犯人”が扉に開いた穴からのぞき込むシーンで目のアップが映し出されると、「若い感じ」「子供じゃないか」と推測する声があふれた。

 渡辺さんは、「『あな番』がヒットして、今回の企画(テセウスの船)もミステリーであるし、原作も『犯人は誰なんだろう?』という面白さ、いろいろな裏切りがある展開だったので、盛り上がればいいなと思っていました」と振り返る。一方で、「想定以上」と感じているといい、「早い時期から盛り上がっているなという印象でもある」と手応えを語る。

 視聴者に楽しんでもらおうと、ポスタービジュアルのほかに、キャストのビジュアルがずらりと並ぶビジュアルを作成した。「“誰もが容疑者に見える”というイメージを作って、楽しんでいただければなと思っていましたので、盛り上がっているのを見てうれしいです」と話す。

 また、第2話の放送後に行われたイベントでは、原作者の東元俊哉さんが「原作と犯人が違う」と手紙で発表。渡辺さんは、「原作がとても面白いので、まず原作を読まれていない方には、原作に触れてほしいという思いもあった。ただ、原作をお読みの方もたくさんいる中で、ドラマ版を楽しんでほしいと思うときに、『違う結末を用意しているから楽しめますよ』というメッセージを出させていただいた」と狙いを明かす。

 原作とは違う結末を用意することについては、「ミステリー作品なので、真相を一個付け加えるということに関しては大きな変更。だいぶ早い段階から、東元さんにお話ししました」と東元さんの了承を得たと明かす。ちなみに、ドラマに登場する犯人からのイラストは、「原作で登場するもの、ドラマオリジナルのもの、全て東元さんに描いていただいている」と明かす。

 ◇“視聴者探偵”の存在

 心がタイムスリップし過去を変えたことで、「音臼小無差別殺人事件」は当初の「青酸カリが入ったオレンジジュース」ではなく「青酸カリが入ったはっと汁」を飲んで死者が出たことになった。

 しかし、2月9日放送の第4話では、新聞記事をまとめたノートの手書きのメモには、青酸カリが入ったジュースを飲んだ、と書かれていた。公式ツイッターでは、2月14日に「『ジュースを飲んだ』とのメモがありましたが、『はっと汁を飲んだ』の誤りでした。大変失礼いたしました」と訂正することがあった。

 この訂正を受けて、SNSでは「あのメモにより、犯人考察も変わってきますね」「みんな混乱してたけど、一番混乱したのはスタッフさんなのね」「悔しい。気づけなかったぁ~」などの声があがった。なかには、「きちんと修正されて、きちんと報告していただけるテセウスの船スタッフさんが好きです」という声もあった。

 渡辺さんは、「事件の概要が微妙に変わっていることに対して、スタッフも混同してしまった。これが“意味があるもの”だと見られる方もたくさんいて。くまなくどこかにヒントがあるんじゃないかと探されているから、そこに関しては気を使わないといけない時代ではある。過ちはすぐに謝らないといけない」と話す。また、「予想以上に皆さんが楽しんで考察してくれているので、気が引き締まる。こちら側のミスで推理が誤るようなことがあっては、“視聴者探偵”の方に申し訳ない」と続ける。

 ◇ミス拡散の恐れ しかし、SNSがあるからこそ…

 配信も含めると、何度も繰り返し高品質な映像で、作品を見ることができる今の時代。渡辺さんは、「SNSの普及によって、ひとつのミスが何倍にも何十倍にも拡散されていくとそこが難しい。ただ、同時に、みんなつながって、『犯人誰なんだろう?』って、考察ブームというか、盛り上がりを持って番組を楽しんでいただけるのは、逆にSNSがあるからこそだと思う。一長一短というか、良さの方が多いんじゃないかと思います」と話す。

 3月15日放送の第9話では、田村心が犯人に呼び出されて向かった文吾の後を追うと、そこには意識不明で重体の加藤みきお(柴崎さん)がパトカーに残されていた。連絡が取れずに行方不明の文吾に、県警の監察官・馬淵(小籔千豊さん)は殺人未遂容疑で家宅捜索するために佐野家を訪れる。そんななか、文吾への恨みの原点と思われる謎のメッセージが届く。ラストには衝撃的な犯人の策略が待ち受け……と展開する。一体“黒幕”は誰なのか……。最後まで推理を楽しみたい。

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