蟷螂襲:「舞いあがれ!」で“ええ声出た”東大阪の町工場の曽根役 “朝ドラに愛された男”が語る現場の魅力

NHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」に出演している蟷螂襲さん (C)NHK
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NHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」に出演している蟷螂襲さん (C)NHK

 福原遥さんが主演するNHKの連続テレビ小説(朝ドラ)「舞いあがれ!」(総合、月~土曜午前8時ほか)。主人公・岩倉舞が生まれ育った東大阪の町工場の社長の一人、曽根を演じているのは、NHK大阪放送局(BK)制作の朝ドラの常連、蟷螂襲(とうろう・しゅう)さんだ。「舞いあがれ!」が、ちょうど朝ドラ10作目の出演となった蟷螂さんに、撮影の裏話や、これまで出演してきた朝ドラについて聞いた。

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 ◇高橋克典に「大阪ことば、お上手ですね」と声をかけた

 蟷螂さんは、1958年10月21日生まれ、兵庫県尼崎市出身の64歳。朝ドラには、「だんだん」(2008年)の入院患者・牛島役で初出演。その後、「てっぱん」(2010年)ではお好み焼き屋の常連の中松、「カーネーション」(2011年)では病院の事務局長・香川、「純と愛」(2012年)では不動産業オーナーの西小路、「ごちそうさん」(2013年)では乾物屋店主の定吉、「マッサン」(2014年)では樺太帰りの従業員(役名なし)、「べっぴんさん」(2016年)では陶器職人の武藤、「まんぷく」(2018年)では刑務所の囚人(役名なし)、「おちょやん」(2020年)では乞食(こじき)のリーダー・小次郎役で出演している。

 どれも、出番は多くないながらも、強い印象を残すという、ワンポイントリリーフのような存在で出演している。今では画面に登場すると、SNSが「蟷螂さんだ!」と盛り上がるまでになっている。

 「舞いあがれ!」の曽根は、高橋克典さんが演じる舞の父・浩太と、しばしば岩倉家の隣のお好み焼き屋「うめづ」で酒を飲んでいるという役柄。第3週では、浩太から納期ギリギリの仕事を依頼されて、思わず口にした「むちゃ言うな、アホ!」という“ええ声”のせりふが、総集編でも使われるほど、大きなインパクトを残している。

 共演した高橋さんに対しては、「とても気さくで、人当たりの柔らかい方。関西弁も安心して聞けるので、講習会で偶然出会うシーンの撮影のときに『大阪ことば、お上手ですね』って、僕から話しかけたぐらいです」と印象を語る。プライベートで「みんなでいっぺん、飲みに行かなあかんなあ」と持ちかけられたそうだが「実現できなかったんですよね」と残念そうに語った。

 ちなみに「うめづ」のシーンに出てくる料理の数々は「本当においしいです!」と証言。「特になんの変哲もないお好み焼きや焼きそばなんですけど、何かうまいことできてるんでしょうねえ。撮影オーケーが出たあとも結構残ってるんですけど、今はコロナのこともあるから持ち帰れないんですよ。できるものなら、ホンマに詰めて持ち帰りたい(笑い)」と、そのおいしさを表現する。

 主人公の舞とは、それほど絡みがない役だが、福原さんと、子ども時代の舞を演じた浅田芭路ちゃんの演技には、非常に驚かされたという。

 「芭路ちゃんは本読みやリハーサルのときから見ていたので、大丈夫かなと思って放送を見たらすごくしっかりした芝居でした。何の心配もなかったどころか、何べんか泣かされましたね(笑い)。福原さんは元子役の人だったと思えないぐらい、何にも染まってない感じで。あと関西の人かと思うぐらい関西弁が上手だったのにビックリしました」と振り返る。

 ◇ワンポイントリリーフで「違う風を入れられたら」

 蟷螂さんにとって、俳優になってから20年以上を経て、出演がかなった朝ドラ。1年以上にわたる撮影期間の中で、ピンポイントで出演するケースが多いが、ある程度、空気が出来上がった現場にポンと飛び込むのは、朝ドラの現場ならではの楽しみだという。

 「大勢のスタッフやキャストが、何カ月もかけて作った現場の、途中のタイミングでお邪魔させていただく。その感じが、僕は好きですね。そこにちょっとだけ、違う風を入れるような居られ方ができたらええかなあと思っています」という。そんな心持ちが、どんな作品でもきっちりと存在感を残していく理由なのだろう。

 今までで特に印象に残ってるのは、「おちょやん」で主人公の千代(杉咲花さん)を何かとサポートした小次郎と、「カーネーション」後半で登場し、晩年の主人公の糸子(夏木マリさん)が行った、病院でのファッションショーを企画した香川だそう。

 「小次郎はポイント、ポイントで出させていただいて、先ほど言った『空気を変える』ということができた、ありがたい仕事だったと思います。やっていても楽しかったしね。香川は、毎日泣きながら見ていた作品に、思いがけず出られたというのもありますけど(笑い)、以前、舞台で夫婦を演じた夏木さんや、同じ時期に京都で演劇を始めたけど、一緒に芝居をしたことがなかった(院長役の)辰巳琢郎さんと、ご一緒できたのがうれしかったです」と顔をほころばせる。

 蟷螂さんは。今もほぼ毎日、「舞いあがれ!」をチェックしているというが、「思った以上に、ええドラマになってるなあと思います」という感想を語る。

 「放送を見ているときは、完全にお客さんの気持ちになっているんですけど、東大阪の街の人たちの人情や一生懸命さが、すごくあふれている。これからも舞ちゃんの成長とともに、その部分がさらにあふれて、見ている方たちに伝わったらいいなあと思います」と思いをはせていた。

 (取材・文:吉永美和子)

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