俳優の松山ケンイチさんが主演、長澤まさみさんが共演する映画「ロストケア」(前田哲監督)。42人を殺害した介護士の斯波宗典を演じた松山さんは、映画を通して何を伝えたいのか。「介護」がテーマにもなっている同作で、松山さん自身はどのような備えをしているのか、必要だと感じていることを語ってくれた。
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映画は、葉真中顕さんの小説「ロスト・ケア」(光文社文庫)が原作。とある訪問介護センターが世話をする老人の死亡率が異常に高く、斯波が40人を超える要介護者の命を奪っていたことが判明する。逮捕された斯波は、検事の大友秀美(長澤さん)に「殺人ではなく“救い”」と主張。社会的なサポートだけでは到底守られない介護家族の厳しい現実を知った大友が、斯波の信念と向き合っていく……というストーリー。
もともと原作を読んでいたという松山さん。映画化の話を聞いたときは「かなり難しいと感じました」と振り返る。
「介護の問題をはらんでいるから、人によっては見たくない、見なくてもいい、という作品です。ただ、人は必ず亡くなるし、必ず体が動かなくなるときが来る。現実を知るということが今後、介護に向き合う備えの第一歩だと思うので、この映画を通して、自分がどのように生きたいのか、どう死んでいきたいのか、向き合うきっかけになれば」と語る。
松山さん自身は、まだ親の介護をする状況にはないが「その日」に備え、家族でコミュニケーションをとる機会を設けているという。
「僕の親は『大丈夫、介護いらない』って言うんですよ。でも『自分は大丈夫』って無責任だと思うんです。もちろん、子供に心配をかけたくないからだと思いますが、何を根拠に大丈夫と言うのか。例えば体が悪くなったら、どこの老人ホームに入るから、と具体案を出してくれれば納得できると思うんです。万が一、要介護になったときのために、元気な体のうちに決めておかないと、残された人は大変なことになってしまいますよね」と力説する。
3月5日に38歳の誕生日を迎えた松山さんだが「その日」のため遺言書を書き、終活を始めている。東日本大震災や日々のニュースを見る中で、徐々に「その日」への備えを始める
ようになった。
「きちんと書いて整理することが大事だと思うんです。子供が自立するまでは絶対に死ねないですけど、あした地震が起きてつぶれてしまうかもしれないし、車にひかれるかもしれない。何か起きて困るのは、周りの人たちだから」
愛する人たちの顔を思い浮かべながら、終活は加速する。
「自分が死ぬのはどうしたって避けられない。自分の理想の死に向かって、どう生きていくべきかを考えています。震災があって、地震や津波の怖さをまざまざと見せられて、備えの大切さが分かりました。いま健康な時に、備えをする必要性を強く感じました」
映画「デスノート」(2006年)でのL役やNHK大河ドラマ「平清盛」(2012年)での主演など、20代の頃から話題作や大作に出演。23年も、大河ドラマ「どうする家康」や連続ドラマ「100万回言えばよかった」(TBS系)など、コンスタントに出演し続けている。「子供を自立させること」が今の目標という松山さんだが、役者、仕事面ではどのような未来図を考えているのか。
「出続けることが大事だと思っています。誤解しないでほしいですが、詰め込みすぎず、ゆとりを持って俳優の仕事をやる方が、自分がベストパフォーマンスを披露できると分かったんです。若い頃は俳優業がすべてで、どうやったら面白い演技ができるかばかり考えていましたが、10割でやると逆にパフォーマンスが落ちてしまって。俳優の仕事以外のこともできたらと考えているんです」。東京と田舎で生活のメリハリを付ける現状の働き方が、俳優業のモチベーション維持にもつながっている。
松山さんは、2022年にライフスタイルブランド「momiji(モミジ)」を始動した。
「このブランドを通して、高齢者の方や障害者の方、普通に働くことができない方のために、セーフティーネットを作りたいんです。俳優業と並行しながらですが、そういったことに関わる活動をしていきたい」
社会とダイレクトに関わる俳優と、我が子の未来を思う普通の父親。どんな形で両立していくのか、ファンならずとも気になる生き方をしようとしている。
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