あまちゃん:じぇじぇじぇ! 本放送からすでに10年、いまだ色あせない面白さ 視聴者を夢中にさせる理由とは?

のんさん
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のんさん

 のんさんが主演を務めた、2013年度前期のNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「あまちゃん」。宮藤官九郎さんが手がけた脚本の面白さも相まって、BSプレミアムなどで4月にスタートした再放送が毎話のように話題になっている。10年前の本放送時も「日本の朝を変えた」といわれた革新性にあふれる朝ドラ「あまちゃん」は、なぜ今でも面白いのか。その理由を探った。

ウナギノボリ

 ◇宮藤官九郎は「自分の中の挑戦」と楽しみながら脚本に取り組んだ

 「あまちゃん」は、第1部「故郷編」(第1~72話)、第2部「東京編」(第73~156話)の2部構成。岩手県の架空の田舎町・北三陸市や東京を舞台に、内気で引きこもりがちだった主人公のアキ(のんさん)が、海女やアイドルとして活躍しながら成長する姿を描いた。

 まず最初に浮かぶ面白い理由として、宮藤さんの脚本の濃密さが挙げられる。

 「あまちゃん」は宮藤さんにとって初めて手がけた朝ドラだった。宮藤さんは引き受けた理由を「やってみたいというのが一番大きかった」といい、「長い歴史のある朝の時間、どれだけ自分が違和感なく溶け込めるかが、自分の中で挑戦」と楽しみながら取り組んだという。

 宮藤さんは、1話15分の中にサブカル、笑いなどの“小ネタ”をふんだんに盛り込み、かつ、先の展開への伏線も張り巡らせた。そのため視聴者は濃密な15分に、毎回夢中になったのだ。

 ◇サブキャラ的な新しいヒロイン

 そんな宮藤脚本から生み出されたヒロインも新しかった。“女の一代記”を描くことが多かった朝ドラは、苦難に立ち向かい、何かを成し遂げる王道のヒロインが多かった。

 「あまちゃん」でアキは当初、母・春子(小泉今日子さん)から「地味で暗くて、向上心も協調性も存在感も個性も華もない、ぱっとしない子」といわれる、いわゆる“サブキャラ”的存在だった。そんなアキをヒロインに据え、王道ヒロイン的なキャラクター、ユイ(橋本愛さん)をサブキャラに配置したことで、ドラマに革新性が生まれた。

 さらに、アキは東京育ちなのに北三陸に行ったらすぐに東北なまりに染まってしまい、自分のことを「おら」、驚いたときに発する、2013年の流行語大賞にも輝いた「じぇじぇじぇ」などを連発。童顔ののんさんが、キラキラした目でそんな変わった(良くいえば個性的な)キャラをナチュラルに演じたことで、作品に新たな“おかしみ”が生まれた。

 本放送当時、宮藤さんは「勝手なイメージですが、朝ドラのヒロインってけなげで頑張っている姿がほほ笑ましかったりするんですけど、意外と(のんさんは)それだけじゃなく、冷めている部分があったり、頑張っているのが暑苦しくない。それがいい」と高く評価していた。

 ◇アキ、春子、夏の3世代ヒロイン

 母・春子の存在も新しかった。ヒロインを優しく支える母親が王道だとしたら、春子は真逆といってもいい。やさぐれているし、アキのことは、心配はしてもそんなに優しくはしてくれない。時には自分本位にキレたりする。

 春子と夏(宮本信子さん)との母娘の葛藤など、3世代の女性の生きざまが描かれたことはストーリーに重みを加えた。2021年後期の朝ドラ「カムカムエヴリバディ」では3世代のヒロインが描かれたが、「あまちゃん」の影響も少なからずあったかもしれない。

 モノローグも多いナレーションは、宮本さんが「故郷編」を、のんさんが「東京編」前半、小泉さんが「東京編」後半と、3世代で語り継いだのも珍しかった。

 そのほか「故郷編」で登場している宮本さん、渡辺えりさん、美保純さん、片桐はいりさん、木野花さん演じる“北の海女”の面々をはじめ、これから東京編で登場するキャラクターそれぞれが背景もきちんと描かれ、“キャラ立ち”している点、1980年代のネタをちりばめ、「東京編」では小泉さんと薬師丸ひろ子さんという当時の本物のトップアイドルを共演させた点、本放送当時はやっていた「AKB48」などのアイドルグループの実像をドラマに落とし込んだ点など、「あまちゃん」の革新性は枚挙にいとまがない。

 ◇ドラマを明るく彩った音楽

 最後に忘れてはならないのは、ドラマを彩った音楽の存在だ。手がけたのは作曲家の大友良英さん。大友さんは、サウンドトラックの制作については当時でも20年以上のキャリアを持つ、実験音楽シーンを代表する音楽家だ。

 オープニングテーマは、近年の朝ドラでは珍しいインスト曲で、今では高校野球の応援にも使われている明るいナンバー。大友さんは同曲について、「ある種のミクスチャーミュージックです。いろいろな人(演奏家)がいて、ワイワイやる音楽を基本にしたいと考えた」と語っている。

 海や山など大自然の中を走る北鉄の映像とともに、音階で始まるオープニングテーマに毎回、心躍らされる。

 そのほか、春子が歌った「潮騒のメモリー」やアイドルチューン「暦の上ではディセンバー」など、再放送ではこれから登場するナンバーも強く印象に残った。

 以上のような新しさが「あまちゃん」の面白さを引き出し、視聴者を熱狂させた。再放送はまだ始まって1カ月。あと5カ月、この面白さを堪能できると思うと、楽しみでならない。

 「あまちゃん」の再放送は、BSプレミアムなどで毎週月~土曜の午前7時15分からデジタルリマスター版を放送。毎週日曜午前9時から1週間分の6話をまとめて放送する。

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