良いこと悪いこと
第8話 7人目、だーれだ?
12月6日(土)放送分
高石あかりさん主演のNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「ばけばけ」(総合、月~土曜午前8時ほか)の第11回(10月13日放送)で、テレビの前の視聴者を最も引き付けた場面はどこだったのだろうか? テレビの前の視聴者が画面にクギヅケになっていた割合を示す「注目度」(REVISIO社調べ、関東地区、速報値)の1分ごとの推移を調べたところ、第11回の最高値は午前8時11分の72.7%だった。
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「ばけばけ」は113作目の朝ドラ。ヒロインの松野トキと、その夫となるレフカダ・ヘブンのモデルは、松江の没落士族の娘、小泉セツと、「怪談」などの著作で知られるラフカディオ・ハーン(小泉八雲)だ。ドラマの中では大胆に再構成し、登場人物名や団体名などは一部改称してフィクションとして描くという。
第11回は、いよいよ始まったトキ(高石さん)と銀二郎(寛一郎さん)の新婚生活が描かれた。働き者の銀二郎のおかげで、松野家の生活も少しは楽になりそうな雰囲気で、祖父・勘右衛門(小日向文世さん)、父・司之介(岡部たかしさん)も、跡取りとなる銀二郎への期待が膨らむ。だが、銀二郎は松野家のおかれた状況の深刻さを次第に知ることになる。トキの仕事場である雨清水家の機織り工場でも不穏な空気が流れ始めていた。
テレビ画面の前にいる人のうち、画面を実際に注視している人の割合を調べた「注目度」は、やや大きな幅で増減しながら、いずれも70%台に達する“山”を5度つくった。新婚生活が始まり、幸せいっぱいのトキだが、周囲に次第に不穏な影が迫りつつある雰囲気を視聴者は感じずにはいられない場面ばかりだった。
最初の“山”は午前8時2分(72.3%)と午前8時3分(70.8%)。初めて迎えた松野家での朝。家族全員で朝食の膳を囲み、司之介が銀二郎に「いただきます」の発声を求めると、銀二郎はその前にとあいさつを始める。「いずれはおじい様、父上様のような立派な当主になりたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします」。立派なあいさつだ。だが、視聴者は司之介がどんな当主か知っているだけに、今も落ち武者のような髪型の司之介が映るたびに笑いとともに不安を感じてしまうのだ。
2番目の“山”はオープニング終了直後の午前8時5分(72.3%)。トキと銀二郎が一緒に仕事場に向かっている場面だ。松江大橋のたもとで、橋の建設のため人柱となった源助を慰霊する「源助柱」にトキがいつものように手を合わせると、銀二郎も一緒に手を合わせる。怪談好きの2人らしい微笑ましいエピソードだが、怪談だけに不安感も少し漂う。
3番目の“山”は午前8時7分の71.3%。銀二郎が荷運びの人足として働く場面が描かれ、仕事が終わった銀二郎がトキと帰宅する場面へと続く。家路を歩きながら、「もとはお武家様だったのに、そげな仕事させてしまって申し訳ありません」と謝るトキに、銀二郎は「貧しいくせに武家にこだわる父が嫌で、早く家を出たかった」と、今回の婚礼に対する自身の思いを明かす。「感謝してもしきれんほどです」と、うれしそうな銀二郎を見れば見るほど不安は募る。「武家にこだわる父が嫌」という言葉が、誰よりも武家にこだわる勘右衛門や司之介を連想させる。松野家で銀二郎がうまくやっていけるのか。さらに不安は増す。
4番目の“山”は、ここまで視聴者に静かに忍び寄っていた不安がはっきり形になった場面。この日の最高値72.7%の午前8時11分を頂点に、前後の午前8時10分(71.1%)と午前8時12分(70.9%)を含めた3分間だ。トキと銀二郎が結婚して1カ月がたち、1月分の稼ぎが玄関先に積まれている。銀二郎が加わったことで、稼ぎが増えたようで、松野家の表情は明るい。だが、その稼ぎは根こそぎ、借金取りの森山善太郎(岩谷健司さん)が回収していく。
「トキちゃんを遊郭に売ろうとしていたけど、あんたが稼ぐと言うけん、ギリギリまで待っちょったところだ」。善太郎の言葉に驚きながら「多少の借金があるとは聞いていましたが」と答えるのがやっとの銀二郎の背後で、司之介は「多少なんてもんじゃないわ」と失笑する。銀二郎は借金の話を聞いてはいたものの、ここまでは思っていなかったのだ。ふみ(池脇千鶴さん)が「なに笑っちょるんですか」とたしなめるが、遅かりしだろう。とどめの言葉が善太郎の「頼んだがね、馬車馬どの」。善太郎はそう言うと、銀二郎の肩をトントンとたたいて去る。ここまでが午前8時10~11分台だ。
4番目の“山”の残る午前8時12分台と、最後5番目の“山”は午前8時14分(70.4%)は雨清水家の異変だ。12分台で、長男で跡取りの氏松(安田啓人さん)が置手紙を残して出奔したことが明らかになり、14分台は「工場の窮状はひとえに私の責任」などと記された手紙を読む当主の傳(堤真一さん)と妻のタエ(北川景子さん)が困惑する場面で終わった。雨清水家の場面に、司之介と銀二郎が相撲を取るなごやかな松野家の情景が挟み込まれる。松野家にも嵐がやってきそうな雰囲気だが、まず嵐の直撃を受けたのは雨清水家だったようだ。
次第にはっきりする影に、視聴者も注視していた過程がうかがえるような、第11回の注目度の推移だった。
活用したデータは、関東の2000世帯、関西の600世帯で番組やCMの視聴状況を調査しているREVISIO社が公表している独自指標の「注目度」。人体認識センサーを搭載した専用機器でテレビ画面に視線を向けているかを常に計測し、テレビの前にいる人のうち、番組を注視していた人の割合を算出している。(文・佐々本浩材/MANTAN)
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