夏休みアニメ映画:“ロングラン”に見られた新たな構図

知らない人同士であったとしても、徐々に同じ作品(チーム)を応援しているという連帯感も生まれていたように思います。
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知らない人同士であったとしても、徐々に同じ作品(チーム)を応援しているという連帯感も生まれていたように思います。

 34日間で興行収入100億円を突破した「天気の子」や、17日間で41億円を突破した「ONE PIECE STAMPEDE」など、今年の夏休みも劇場版アニメが大ヒットしている。一方で、約3カ月間の上映で10億円を突破した「プロメア」を筆頭に、これまでと違ったファンの動向で支持を集めている作品もあるようだ。アニメコラムニストの小新井涼さんが独自の視点で分析する。

ウナギノボリ

 今年の夏休みは、「ミュウツーの逆襲 EVOLUTION」に「天気の子」、「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」に「ONE PIECE STAMPEDE」、そして先週公開の「二ノ国」と、話題作が毎週のように公開され、映画館の半数近くのラインアップをアニメ映画が占めるほどでした。そんな劇場版アニメの激戦期であった今年の夏休みは、一体どんな作品がどのように盛り上がっていたのでしょうか。

 どの作品も、ジャンルやメインとなる客層は異なるものの、私は話題作の盛り上がり方が、“メガヒット”と“ロングラン”に大きく二分されていたように思います。

 文字通り“メガヒット”な盛り上がりをみせていたのは、「天気の子」や「ONE PIECE STAMPEDE」といった、アニメファンはもちろん、普段アニメを見ない人までが夏休みを利用して映画館を訪れるような超メジャー作品です。これらの作品は、確実に盛り上がることが公開前から予想されており、300館を超える日本各地の映画館で封切りされた後も、一日に何度も上映が行われ、現在も興行収入が何十憶単位で随時更新されています。

 一方“ロングラン”といえば、従来であれば、2016年の「君の名は。」だったり、随分前ですが「千と千尋の神隠し」だったりと、メガヒット作品の中で、特に上映が長続きした場合にそう呼ばれることが多かったと思います。ところが今年の夏休みに関しては、上記のようなメガヒット作品とは違った勢いを持った作品が、ロングランとなるような盛り上がりをみせていたのです。

 今年の夏休みに、そうした“ロングラン”となったのは、「プロメア」や「劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEキングダム(うたプリ)」、「ガールズ&パンツァー(ガルパン) 最終章 第2話」や「青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない(青ブタ)」といった作品たちでした。これらの作品は、上記のメガヒット作品と比べると、上映館数や一日の上映回数は少なく、劇場に足を運ぶメインターゲットも、大半はアニメファンに限られています。

 通常であれば、そうした作品はある程度話題になったとしても、上映館数や上映回数が少なくなるにつれて、盛り上がりも静かに終息し、長くても2カ月以内には上映が終了するものでした。ところが上記の作品は、上映館数も減り、上映回数も1日1回、中には1週間に数回程度にまで減少しているにもかかわらず、後から公開された夏休み映画でさえ上映が終了していく中、5、6月の公開日から夏休み中まで上映が続いていたのです。

 今回、こうして従来とは異なる形でロングランとなった作品に共通していたのは、作品と観客との関係性が、“スポーツチームとサポーター”のようだったことだと思います。元々の作品への思い入れもあると思いますが、今回ロングランとなった作品の観客は、作品に対するスタンスが、ただ単に作品を見て楽しむ“お客様”というよりも、対象に寄り添って一緒に盛り上げる“スポーツチームのサポーター”に近かったのです。

 また、上記のロングラン作品は、ファンが同じ作品を繰り返し鑑賞していたという特徴もあったため、映画館に集う観客同士の間には、たとえ知らない人同士であったとしても、徐々に同じ作品(チーム)を応援しているという連帯感も生まれていたように思います。同じ作品の上映に通い慣れた後に、ふと初見で別の映画を見に行くと、同じ映画館の客席でも急に他所の家に来たような感覚になることがありましたが、それも通い慣れた作品の上映回にそうした連帯感、まるでサッカーでいうホームスタジアムのゴール裏のような心強さを感じていたからだったのでしょう。

 こうした“スポーツチームとサポーター”のような作品と観客との関係性によって、作品ファンは映画を純粋に楽しむのはもちろん、作品自体を応援する感覚で、上映を続けてくれる限り何度も劇場に足を運んだのだと思います。映画館側もそんな観客の熱意に応えて、回数は少ないながらも上映期間を延ばし続けた結果、これらの作品が3カ月以上続くロングランとなったのでしょう。

 これまでも、こうしたロングランの作品は散発的にはありましたが、今年の夏休みはそうしたタイトルがいくつもみられました。決して目立つ存在ではありませんでしたが、作品とサポーターという関係性が、新たなヒットを生み出す構図として、これからさらに注目されていくのではないでしょうか。

 ◇プロフィル

 こあらい・りょう=埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。明治大学大学院情報コミュニケーション研究科で、修士論文「ネットワークとしての〈アニメ〉」で修士学位を取得。ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)の全アニメを視聴して、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続中。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、現在は北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程に在籍し、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。

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