渡辺謙さんや宮崎あおいさん、さらに妻夫木聡さんら日本映画界屈指の俳優たちが競演する映画「怒り」が17日から公開される。この作品は、吉田修一さんの同名小説を李相日監督が映画化したもので、吉田さんの小説を李監督が映像化するのは、2010年公開の「悪人」以来2作目となる。音楽を、坂本龍一さんが担当。ひりひりするような痛みを伴う、人を信じることの難しさを痛感させられる作品だ。
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1年前に八王子で起きた夫婦殺人事件。犯人が整形し逃亡を続ける中、千葉、東京、沖縄に、素性の知れない若者が現れる。千葉の漁協組合で働く槙洋平(渡辺さん)の娘、愛子(宮崎さん)は、2カ月前から漁港で働き始めた田代哲也(松山ケンイチさん)に引かれていく。東京では、大手通信会社に勤める藤田優馬(妻夫木さん)が、大西直人(綾野剛さん)という無職の男と出会う。沖縄では、高校生の小宮山泉(広瀬すずさん)が、バックパッカーの田中信吾(森山未來さん)と知り合う。それぞれの場所で、それぞれの人たちが、やがて、信じる力を試されていく……というストーリー。
未解決の殺人事件に、身元不詳の3人の若者。当然ながら当初は“犯人探し”に関心の矛先が向いた。しかしそういったことは、やがて興味の枠から外れ、3人を愛した人たちが、果たしてどこまで彼らを信じられるのかということに神経が集中していった。それは、自分自身の“人を信じる力”を試されることでもあり、見終えた時は、“怒り”の根源や“愛”について、さまざまな思いが去来した。俳優たちの役への没入感もすさまじく、渡辺さんは、娘の幸せを願うあまりオロオロするばかりの父親に徹し、妻夫木さんは、本当の愛に気付き始めるゲイの男になり切っていた。松山さん、綾野さん、森山さんは、いい意味で存在感を打ち消し、広瀬さんは、物語の前半と後半でまったく異なる表情を見せていた。俳優たちから従来とは違う表情を引き出し、三つの独立した話を違和感なく一つにまとめあげた李監督の手腕に、改めて感服した。17日からTOHOシネマズ日劇(東京都千代田区)ほか全国で公開。(りんたいこ/フリーライター)
<プロフィル>
りん・たいこ=教育雑誌、編集プロダクションを経てフリーのライターに。映画にまつわる仕事を中心に活動中。大好きな映画はいまだに「ビッグ・ウェンズデー」(78年)と「恋におちて」(84年)。
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