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11月21日(木)放送分
28日に公開された「恋妻家宮本(こいさいかみやもと)」で初めて映画監督に挑んだ脚本家の遊川和彦さん。1987年放送のテレビドラマ「うちの子にかぎって…スペシャル2」で脚本家としてデビューしてから多くのドラマを書いてきた。2011年の「家政婦のミタ」は最終回で40.0%という驚異の視聴率を記録。最近の「偽装の夫婦」(15年)、「初めまして、愛しています。」(16年)も話題になった。そんな遊川さんに、最近のテレビについて思うことを聞いた。
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「残酷な言い方をすればスポーツ選手と一緒で、最盛期が過ぎたんだと思う」……最近のテレビを、そう表現する遊川さん。そして、「そこからイチローになるか、引退するかのどちらかで、基本的にイチローにならざるを得ないわけですから、自分たちなりの努力といいますか、それこそ、時代に影響するメディアだからこそ、そろそろ対策を考えなければいけない時期になっているということに、まだ気づいていないのではないかと思います」とテレビ局の姿勢に危機感を募らせる。
番組に対する批判やタレントを揶揄(やゆ)する書き込みがネット上に氾濫する昨今だが、遊川さんいわく、「テレビはすでに一種のタレント」と化し、「タレントとして、自分はどういうエンターテインメントなりメッセージなりをみなさんに伝えるかという発想をしていく、それぐらい振り切っちゃった方がいいと思います」と提言する。
そのためには、「テレビ全体で考えてもしょうがない。その局、その局が個性を出して発信する」ことの必要性を掲げる。そして、「(テレビ局は)こんなに大きな“伝えるツール”を持っているわけだから、何を伝えるかということを考えた方がいいと思うし、そのためにドラマがあり、バラエティーがあり、ニュースがあり、報道番組がある。我々は、どういう番組を作って、何を伝えるのか。また、それに対してどうたたかれるか、そういうことも意識しながらやっていった方がいい。公共性とか、コンプライアンスを考えている場合じゃない」と言い切る。
もっとも遊川さんとて、テレビ局に対し、コンプライアンスをあえて侵せというつもりはない。「だけど、多少の失敗はしないと物事の良し悪しは分からない。でも、テレビは今や、失敗を侵す勇気がないわけです。たとえ失敗してもいいんですよ。それは信念で伝わるから。あとは組織内で、多少たたかれてもお前を守ってやるとか、結果が出るまでは地位を保証するから恐れなくていいよと、偉い人が言ってあげればいいんです」と組織のあり方に言及する。
さらに、「信念があれば、たたかれてもいいわけです。たたかれてひよるぐらいならやめた方がいい。僕だってたたかれますよ。でも、これが正しいと信念を持ってやっているわけです。ドラマの新しいもの……きれいごとではない、汚い、ひどい、明日は人が死ぬかもしれないという現実を提示したいんです。だけどそれを出すと、なんてことをするんだと言われる。そのときは、表現の仕方が下手だったと思うしかないんです。その反省を踏まえて、次はもうちょっとたくさんの人が分かるような表現にしようと考えるわけです」と語り、「刺激もありつつエンターテインメントにして、(視聴者を)気持ちよくするというのは、とっても難しいことだけれど、英知を持ったエリートが集まっているんだから、みんなで考えて取り組めばいいと思うんです」と番組制作者にエールを送った。
では、逆に視聴者はどのようにテレビと向き合えばいいのか。この問いかけに、「見る側は厳しい目でいた方がいいし、見たくなければ見なくてもいい」としつつ、このインタビューが行われたとき、ちょうど、連続ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」(16年)が高視聴率を記録していたことを受けて、「それは、みんなが来週を楽しみにしているからですよ。なかなかないですよ、そういうものは。映画が、来週楽しみだなんて、あり得ないじゃないですか。そういう意味では、連続ドラマは非常にしんどいんですけれど、そういうことができるし、大きなムーブメントにもなるツールなんだから、それは捨ててはいけないし、大事にしなくちゃいけない」と作る側の思いを語る。
「映画」という言葉が出たので、「映画とテレビ」の関係についても聞いてみた。すると「テレビ局が映画に入ってきてから、いろいろ変わった」と印象を述べ、「あれも良し悪しというところがあって、結局、テレビはテレビで映画を利用しているわけですから、自分の利益誘導。言い方はひどいけれど、みんな自分の利益が一番大事ですから、そういう意味ではテレビと映画というのは、ある種(商売の)取引先同士みたいなもの。お互いにもうかるなら(一緒に仕事を)するし、みたいな。それぐらいのことのような気がします」と話す。
ただしそれは、「表現者以外」の立場の視座で、表現者としては「映画とテレビ、どちらが優れているということではなく、優れた映画とダメな映画、優れたテレビとダメなテレビ。我々は、その現場にいるならば、映画にいるときは優れた映画を作るべきだし、テレビにいるときは優れたテレビを目指すべき。それだけの違い」と力を込める。
ちなみに、自身が書いたテレビドラマをこれまで映画化してこなかったのは、「ドラマが当たったからといって安易に映画化しても、オリジナルのドラマには絶対勝てない。もっといえば、つまらない映画を作れば、オリジナルの価値さえも貶(おとし)めてしまう。そういう例はいっぱいある。だから、オリジナルよりもっと面白くなるという確信がない限りは、絶対作らない」を信条としているからだ。
また、昨今目立つマンガや小説など、原作ありきの映画については、「なんでもあり」としながら、「オリジナリティーを出すということが大事だと思います」と指摘。「マンガも、そのままやっても意味がないわけです。マンガを見ていると十分面白いんだから。面白い映画をリメークするのだって、そっち(オリジナル)の方が面白いに決まっている。そうなると何かを変えるしかない。その勝算がない限りは、やらない方がいいんです。あの映画をこういうふうにしたいんですと言った時、それ、面白いねと言う人がいない限りは、作るべきではないんです。あれが当たったから次も当たるかもしれませんという程度でやってもだめなんです」と強調する。
実際、遊川さん自身が脚本を書き、初メガホンをとった映画「恋妻家宮本」(28日公開)は、重松清さんの原作を大幅に改変している。その上で、「映画をテレビにするにしても、テレビを映画にするにしても、結局はいいものを作らないと」と結んだ言葉に、まぎれもない、表現者としての矜持(きょうじ)がのぞいた。
<プロフィル>
1955年生まれ、東京都出身。広島県で育ち、大学卒業後上京。映画学校に短期間在籍後、テレビ制作会社ディレクターを経て、87年「うちの子にかぎって…スペシャル2」で脚本家としてデビュー。2003年のスペシャルドラマ「さとうきび畑の唄」の脚本で、文化庁芸術祭大賞(テレビ部門)受賞。05年「広島 昭和20年8月6日」は日本民間放送連盟賞番組部門・最優秀作品に選ばれた。「女王の教室」(05年)で第24回向田邦子賞受賞、「家政婦のミタ」(11年)で東京ドラマアウォード脚本賞受賞。ほかの主な作品に「学校へ行こう!」(91年)、「GTO」(98年)、「魔女の条件」(99年)、「オヤジぃ。」(00年)、「純と愛」(12-13年)、「○○妻」「偽装の夫婦」(共に15年)、「はじめまして、愛しています。」(16年)などがある。
(取材・文・撮影/りんたいこ)
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