解説:主役級の“犬の声”と媒介者としての“天の声” NHKドラマを“声”で支える柄本兄弟

「ドラマ10『シバのおきて〜われら犬バカ編集部〜』」で柄本時生さんが声を務める福助 (C)NHK
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「ドラマ10『シバのおきて〜われら犬バカ編集部〜』」で柄本時生さんが声を務める福助 (C)NHK

 NHKの「ドラマ10」枠(総合、火曜午後10時)で9月30日にスタートした「シバのおきて〜われら犬バカ編集部〜」。柴犬専門誌編集部員のドタバタぶりと、愛らしい柴犬の姿が描かれている同作で、主人公の愛犬の声を務めているのが、俳優の柄本時生さんだ。一方、時生さんの兄・柄本佑さんも、同局で放送中の夜ドラ「いつか、無重力の宙(そら)で」(総合、月~木曜午後10時45分)で、“天の声”と呼ばれるドラマの語りを担当。偶然にも(偶然なのか?)兄弟がそろって、同時期のNHKドラマを“声“で支えることに。視聴者の間でも話題となっている。それぞれの“味”とは……。

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 ◇本当の「いぬのきもち」に聞こえてしまう?

 「シバのおきて〜われら犬バカ編集部〜」は、片野ゆかさんによるノンフィクション「平成犬バカ編集部」が原作。柴犬専門誌「シバONE」が舞台で、大東駿介さんと飯豊まりえさんをはじめ、片桐はいりさん、こがけんさん、篠原悠伸さん、さらには愛らしい柴犬たちが出演している。

 本作の主人公は、大東さん扮(ふん)する「シバONE」の編集長・相楽俊一。その愛犬・福助も主要な“登場人物”(というか、もう一人の主人公)で、表情豊かに見える福助役のタレント犬「のこ」の“名優”ぶりも、ドラマの初回から視聴者の注目を集めてきた。

 そんな「のこ」の演技をより引き立てているのが、柄本時生さんの声となる。

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 劇中で「のこ」は福助として、周りの人間の言動に対してさまざまなリアクションを起こしたり、時に無関心を装ったりもするが、それらに説得力を加えているのが、いい意味で力感のまったく感じられない時生さんの声とせりふの言い回し。本当の「いぬのきもち」に聞こえてしまうのは、脚本の巧みさはあるにせよ、どこかひょうひょうとしていて、何ともファニーという“らしさ”を随所で発揮している時生さんの貢献度は決して無視できない。

 演技巧者(犬)の「のこ」との相乗効果で福助を主役級に押し上げ、その一挙手一投足に目が離せなくなるような、ナイスなキャスティングといえよう。

 ◇淡々と状況を伝える声が効果的に

 では、「いつか、無重力の宙で」における、兄・柄本佑さんはどうなのか。

 ドラマは、「超小型人工衛星」で宇宙を目指す、30代女性たちの2度目の青春物語。高校時代に「一緒に宇宙に行こう」と夢を語り合った天文部の女性4人は、大人になってそれぞれの道を歩む中、ふと忘れていたかつての夢と再会する。「超小型人工衛星だったら、今の私たちでも宇宙を目指せるかもしれない……」と、“あの頃”の自分に背中を押されて、2度目の青春が始まる……という内容だ。

 メインキャストは木竜麻生さん、森田望智さん、片山友希さん、伊藤万理華さん。第6週までが放送され、森田さん扮する日比野ひかりとの“別れ”を乗り越え、残りの3人が再び宇宙を目指そうとする姿と、2度目の青春と夢がどういう形で結実するのか、今後の見どころとなっている。

 本作で“天の声”を担当する柄本佑さんの活躍の場は、「シバのおきて」における弟の時生さんと比べると限定的だ。“語り”という役割に忠実に、淡々と状況を伝える佑さんの声。だからこそ効果的に聞こえる瞬間はあり、第22回(10月14日放送)で木竜さん演じる望月飛鳥が、ひかりが生前に語っていた食べ方に倣って「カップ焼きそばをかっこむ」シーンでの、「悲しい時に、ごはんをおいしく思えてしまうことが余計悲しかった」との“語り”は、個人的には何度も脳内再生されるくらいに心に響いた。

 ここでの“天の声”を「蛇足」と捉えた視聴者もいたようだが、飛鳥の悲しみのグラデーションの始点を示して、その後の“喪失感”を際立たせていた思う。柄本佑さんの“天の声”は引き続き物語に寄り添いつつ、媒介者として登場人物と視聴者をつないでいってくれるに違いない。

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