黒川文雄のサブカル黙示録:エンタメの自粛

 東日本大震災地の被害はいまだにとどまるところを知らない。そんな中、ゲーム業界は、大手会社がこぞって億単位の寄付を出して話題になった。さらにユニークな協力が目についたのも特徴で、アーティストのGACKTさんがハンゲームを使った募金を呼びかけ、大震災による電力供給不足への節電に協力するためにオンラインゲームのサービスが一時停止するといった施策もあった。そしてもう一つ、家庭用ゲームソフトの発売延期ラッシュも話題になった。

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 まず、セガのPS3ソフト「龍が如く OF THE END」の発売延期が発表されるや、任天堂も3DSソフト「スティールダイバー」の発売を延期。アイレムソフトウェアエンジニアリングは、地震をテーマにしたPS3ソフト「絶体絶命都市4」の発売を中止した。他にも多くのソフトが延期を告知して、逆に3月中旬から下旬の発売ソフトがほとんどないという状態になった。またネットゲーム関連では、予定されていたアップデートが時節がら「不適切」ということで見送られた施策も多く、バナー広告も自粛されたという。

 確かに、この時期には家庭用ゲームソフトの発売や、オンラインゲームのアップデートは、不適切という見方もあるかもしれない。実際に、映画公開も災害を連想させる作品は自粛されたが、ここ数年で厳しかった市況はさらに冷え込んだ。しかし、あくまでもエンタメというカテゴリーでは、これらの自粛はやや過剰な反応ではないだろうか。

 エンタメは、本来は「世の中から無くてもよい」と言われても反論しづらいコンテンツだ。言ってみれば無駄な時間を、娯楽性で満たすためのもので、楽しい暇つぶしだ。だから昨今の風潮としては「こんな時期に不謹慎な」とか、「そんなヒマがあったら復興支援をしろ」とか言われそうな環境にある。

 若干毛色は異なるが、個人的に気になるのが浅草「三社祭」の開催見送りである。祭りは、五穀豊穣(ほうじょう)や無病息災を願うもの。本来であれば行われてしかるべきものではないだろうか。もしくは開催方法とて、模索すればいろいろな方策があったのではないか。開催することで集まる寄付や基金を、災害地や被災者に寄付という形も取れたのでは……と考えてしまう。祭りは基本はエンタメ的な要素が多い。開催見送りは残念だ。

 寺山修二さんの「書を捨てよ、町へ出よう」になぞらえるのも違うかもしれないが、被災者以外の人たちは、そろそろテレビの震災報道を消して、本来あるべき仕事や学業に戻る時期ではないか。それは決して、災害地や被災者を忘れることではない。一人一人がテレビの前で考えるのではなく、個人として何ができるのかを考えるにはいい機会だと思う。

 著者プロフィル

くろかわ・ふみお=1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、映画・映像ビジネス、ゲームソフトビジネス、オンラインコンテンツ、そしてカードゲームビジネスなどエンターテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。ブログ「黒川文雄の『帰ってきた!大江戸デジタル走査線』」(http://blog.livedoor.jp/kurokawa_fumio/)も更新中。

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