黒川文雄のサブカル黙示録:「ゲーミフィケーション」という言葉

 横文字を使った専門用語はいつの時代も生まれるが、最近業界で流行している用語の一つに「ゲーミフィケーション」というものがある。ゲームクリエーターだったジェーン・マゴニガルさんが提唱しており、簡単に説明すると、ゲーム的なノウハウを実社会で共有したり、応用したりすることを指している。

ウナギノボリ

 ただ、ゲームなどのコンテンツ業界に身を置く者からすると、おのずとその感覚は身につくというのが私の実感だ。少し意地悪ないい方になるが、専門用語系の言葉は「いった者勝ち」の部分もあるので、語感のいいこの言葉は、しばらくの間はコンテンツ業界を回り続けると思う。

 確かに独りでゲームをクリアするのは生産的な作業ではない。ストーリーを読み解く感動や、テクニックを駆使してクリアする達成感はあるだろう。しかし、それが他人と共有されているかは別である。もちろん、ゲームの体験や感想をブログやツイッターにアップして共感を得たり、ゲームの攻略情報をサイトに掲載して他人から感謝されることはあるだろう。しかし「ゲームのノウハウを共有・応用している」といえば違う。

 そこで、ゲーム的なノウハウを社会的な何かに役立てよう……というのが「ゲーミフィケーション」である。共感でもなく、感謝でもなく「共有する」という考えは、斬新だとは思う。だが個人的には欧米はさておき、日本ではマッチしないのでは……とも考えている。理由の一つは、日本の企業は、会社の枠を超えた横のつながりや連携をするという意識が欧米に比べて低いこと。もう一つは、コンテンツに関わる人間たちが、課題にして推し進めようという気持ちを持っていないことだ。

 文化の違いもあるが、日本ではチャリティーやボランティア、寄付の文化、基金が欧米ほど盛んではない。個人的には、顧客の利便を図ったり、課題を解決するこの手法をイメージの良さを利用した「金看板」にして、一もうけしよう……というコンテンツが生まれるのではと思っている。なぜなら、日本企業は利益にならないという理由で、文化に貢献するという意識が薄い。だから真の「ゲーミフィケーション」は、日本のプロからは生まれにくいと思うのだ。

 ◇著者プロフィル

 くろかわ・ふみお 1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、映画・映像ビジネス、ゲームソフトビジネス、オンラインコンテンツ、そしてカードゲームビジネスなどエンターテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。ブログ「黒川文雄の『帰ってきた!大江戸デジタル走査線』」(http://blog.livedoor.jp/kurokawa_fumio/)も更新中。

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