百合子さんの絵本:「ムーミン」翻訳者の知られざる戦争体験 薬師丸ひろ子と香川照之が夫婦役熱演

NHKの終戦スペシャルドラマ「百合子さんの絵本~陸軍武官・小野寺夫婦の戦争~」のワンシーン=NHK提供
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NHKの終戦スペシャルドラマ「百合子さんの絵本~陸軍武官・小野寺夫婦の戦争~」のワンシーン=NHK提供

 女優の薬師丸ひろ子さんと俳優の香川照之さんが出演するNHKのスペシャルドラマ「百合子さんの絵本~陸軍武官・小野寺夫婦の戦争~」が30日、NHK総合で放送される。「ムーミン」など児童文学の翻訳者として知られる小野寺百合子と、百合子の夫で「諜報の神様」といわれたスウェーデン駐在の陸軍武官・小野寺信が、第二次大戦中の欧州で、日本の運命を変えるべく懸命に生きる姿を描く。薬師丸さんが百合子、香川さんが信と夫婦役を熱演し、加藤剛さん、吉田鋼太郎さんらも出演する。

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 「百合子さんの絵本」は、岡部伸さんの「消えたヤルタ密約緊急電」を原案とした“終戦スペシャルドラマ”。昭和16(1941)年、百合子(薬師丸さん)は、陸軍武官としてスウェーデンのストックホルムに駐在していた夫・信(香川さん)の元へと向かう。到着したその日から百合子は、夫が入手した極秘情報を暗号化し、日本の参謀本部に送るという職務を与えられるも、それは外出時に必ず見張りがつき、子供の命が危険にさらされるという緊張の日々の始まりでもあった。時に信といさかいを起こしながらも、母としての悲痛な気持ちを押し殺し、電文を送り続ける百合子。

 一方、信はある日、ヤルタ会談で交わされた連合国の密約の存在を知ることになる。それは「ソ連ガ対日参戦ヲ決メタ」という、日本の敗戦を決定づける極秘情報で、百合子はこの情報を本国が受け取れば、きっと和平に動くにちがいないと信じ、打電し続けるも、願いむなしく日本は敗戦を迎える………というストーリー。

 時代が時代とはいえ、上品で奥ゆかしく、子供たちにとっては優しい母である百合子が、国家の行く末を左右するような諜報(スパイ)活動の一翼を担っていたことに驚かされるが、これはまぎれもない実話で、夫の信が苦悩する姿も含めて、まさに知られざる過酷な戦争体験がここにあったといえる。また百合子のその後の人生にも影響を与えたであろう、夫婦や家族の絆を象徴する一冊の絵本との出合いも描かれ、彼女が選んだ道が戦争と決して無関係ではなかった点も興味深い。

 さらに、昭和の母を演じさせたら、右に出るものはいないとも思える薬師丸さんの包容力、感情を抑えながらも、表情や口調の端々から心情をにじませていく香川さんの重みのある演技は見事で、出番は少ないながらも、吉田さんの“嫌なやつ”ぶりも見どころだ。

 ドラマ「百合子さんの絵本~陸軍武官・小野寺夫婦の戦争~」はNHK総合で30日午後9時~同10時半に放送される。

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