福原遥さん主演のNHKの連続テレビ小説（朝ドラ）「舞いあがれ！」（総合、月～土曜午前8時ほか）の第19週（2月6～10日放送）では、投資の仕事をしている悠人（横山裕さん）にインサイダー取引疑惑が浮上し、罪が確定するまでの“挫折と再生”が描かれた。家族との関係に複雑な思いを抱える悠人を魅力的なキャラクターにしたのは、演じた横山さんの力によるところが大きい。同作の制作統括・熊野律時（くまの・のりとき）さんに、横山さんの演技について、また今後の悠人について聞いた。

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　◇雨の中倒れるシーン「悠人自身ショックだったことを象徴的に表現」

　ヒロイン舞（福原さん）の兄である悠人は、幼い頃、両親が仕事や原因不明の熱を出す舞にかかりきりになり、寂しい思いをしていた。東大に進むと、父が営む工場の仕事に反発して投資に興味を持ち、やがてファンドマネジャーとして頭角を現すようになる。リーマンショックを予見して、「投資のカリスマ」ともてはやされ、テレビにも出演していた。

　熊野さんは悠人について、「台本に書いてある部分もあるんですが、半分は横山さんの作り上げてくださったキャラクター」と語る。

　「悠人は表現するのが難しい人物。言っていることはドライでクールなんですが、家族に対する思いはきっちりある人。深いところに家族への思いはあるのに、なかなか伝わりづらい。自身はそこに苦しんでいるところもあるし、家族となかなか分かり合えない切なさなども、横山さんにしっかり表現していただいた」と評する。

　さらに「そんな繊細な部分を的確に表現していただいて、本当に横山さんでなかったら、悠人はここまで深みのあるキャラクターにはならなかったかもしれない。理想的な形で悠人を表現していただけているなと思っている」とたたえる。

　インサイダー疑惑が報道され、失意の悠人が雨の中、公園で倒れるシーンは衝撃的だった。熊野さんは「悠人は、絶対に自分はこういう失敗はしないと思っていたことをやってしまった。自ら招いたこととはいえ、いままで積み上げてきたものをひっくり返してしまい、自分自身ショックだった。それが雨に打たれて倒れた悠人に象徴的に表現されている。撮影は、冷たいし寒いし大変だったと思うんですけれど、横山さんが躊躇（ちゅうちょ）なく思い切って演じていただけたので、本当にいいシーンになった」と喜ぶ。

　◇横山裕は「すごく優しい方」

　撮影現場での横山さんは、「すごく優しい方。福原さんのことを気遣って、『ヒロインをやるのって大変だから、気になること、悩んでいることがあったらいつでも言ってね』と声をかけてもらっていると福原さんも話していました。現場でも優しいお兄ちゃんと妹という感じを、2人とやりとりしていても感じる」という。

　舞と悠人としては、「舞は悠人に対して、自分の思っていることを割と素直にぶつけますし、悠人もお母ちゃんの電話には出ないが舞の電話には出て、舞が言うことはちゃんと聞いている。お互いの気持ちを伝え合っていて、根っこの部分では仲が良い」といい、「少し屈折した兄妹関係ではあるんですが、しっかりと気持ちはつながってるんだということを、横山さんと福原さんが（実際の）関係性を踏まえた上で表現していただけている。そのへんは興味深いし面白いなと感じている」と語る。

　◇久留美との仲が急接近？

　今回の悠人の事件が描かれた理由について、熊野さんは「悠人が、何がいけなかったかをもう一度、自分自身と向き合う機会としてこの事件がある」といい、「一生懸命ってどういうことなんだろう、お父さんが（命を）懸けていたことの本質って何だろうかと、ここから悠人は考えることになる。これから何をしていけばいいんだろうかと、より悠人の考えが深まっていく。そういったことを長い物語の中で描けたら面白いなと思っている」と話した。

　そして、「これから悠人がどう変わっていくのかは、すごく大事なポイントでもあるので、ぜひ楽しみにしてほしい」と呼びかけた。

　また、倒れていたところを助けてくれた久留美（山下美月さん）に、お礼にと悠人は「うめづ」のお好み焼きを渡し、久留美は笑顔を見せた。熊野さんはこのシーンについて、「久留美は、悠人がちょっと変わった、つっぱっていた部分が取れたんだなと、少しほっとしてうれしかった。かたくなだった舞のお兄ちゃんがこんなふうに変わったんだと温かい目で見たシーン」と解説する。

　ここで2人の仲が急接近したようにも見えたが……。熊野さんは「どうなるんでしょうね。楽しみにしていただきたい」と含みを持たせた。

　13日から始まる第20週の副題は「伝えたい思い」。登場人物の「伝えたい思い」が交錯する展開になる。悠人の思いは今後、どうなっていくのか、ヒロイン舞とともに見守りたい。