どうする家康:“史実厳守”に「勉強大変だった」 脚本・古沢良太インタビュー 描きたかったことは「天才じゃない家康」

12月3日放送の大河ドラマ「どうする家康」第46回「大坂の陣」の一場面(C)NHK
1 / 5
12月3日放送の大河ドラマ「どうする家康」第46回「大坂の陣」の一場面(C)NHK

 最終回含め残すところあと3回、「大坂の陣」に向け終盤戦に突入しているNHK大河ドラマどうする家康」(総合、日曜午後8時ほか)。主人公の徳川家康(松本潤さん)が、夢である乱世の終息を目指し、最後の戦いに挑もうとしている。徳川家康の生涯を新たな視点で描いている今作だが、最終回を前に脚本家・古沢良太さんに、“描きたかった”ことや、主演の松本さんの印象、約2年間に及んだという執筆作業で大変だったことなどを聞いた。

ウナギノボリ

 ◇松本潤は「懸命に、繊細に役に向き合ってらっしゃった」

 --古沢さんが今作で“描きたかった”ことを教えてください。

 天下を統一し、江戸幕府を開いた偉人としての家康は、これまで数々の作品でもう十分描かれ尽くしていると思うんです。僕が描きたかったのは、そんな偉人としての家康ではなく、“天才でもない一人の普通の子が、どうやって乱世を生き抜いていったか”。そしてそんな家康の人生をどう魅力的に描いていくか考えたとき、家臣との絆や家族の物語を大事にしたかったので、戦よりもなるべくそっちを重点的に描くことにしました。

 --家康は天才ではなかったと?

 戦国時代には信長や秀吉と数々の英傑が出てきましたが、ほぼみんな一代で隆盛を築いた後に、次代への継承で失敗している。ただ家康だけがそれを成功させるんですよね。なぜ家康だけがそれをできたのかっていうのは、いろいろな見方があるのでしょうが、僕は“普通の人だったからできた”と考えています。信長も秀吉もすごい天才だったと思うのですが、天才は天才にしか運営できない仕組みを作ってしまうから、それを継承することは難しい。でも家康は普通の人だったから、普通の人が運営できる体制を作ることができ、260年続く時代の礎を築けたのだと思うんです。

 --たしかにそれは新しい家康像になりますね。

 家康をか弱い“白ウサギ”として描いたのは、新しいだろうなと思います。彼の人生は本当に艱難(かんなん)辛苦の連続なので、そんな白ウサギが戦国の荒波を経てどう変わっていったのかというお話がやりたいな、と。

 --白ウサギの家康が、老獪(ろうかい)な天下人に成長しました。

 僕の中では家康の“成長物語”を書いたつもりはなくて、心が壊れていっているというか、人間らしさを捨てていっているのだと思っているんです。彼本来の優しさや弱さという本質は変わっていないのですが、乱世を終わらせるという使命のため、自ら修羅の道を選択した。その結果、みんなから人ではない神のように畏敬(いけい)される。そういう解釈で描きました。本当の彼はドラマを見てくださった視聴者だけが知っているとも。

 --家康役の松本潤さんの印象をお聞かせください。

 “懸命に、繊細に役に向き合ってらっしゃったな”という印象です。執筆前に全48話の構成を作ったとき、松本さんに見ていただいたんです。彼はそれをすごく熱心に読み込んで、家康がどこでどう変化していくのかということを懸命に考えてくれていました。大河の撮影は第1回から順番に撮っていくわけではないので、そういう中でも先々のことを計算しながら丁寧に家康を演じてくださいました。

 --松本さんの演技のご感想を。

 前半の白ウサギのダメダメな感じを振り切ってやってくださって感動しました。後半のすごく貫禄のある家康になってからの印象が強いかもしれませんが、僕はあの前半のダメダメな家康をあそこまで振り切ってやることの方が多分難しいことで、松本さんも頑張ったと思うんです。もっと皆あっちを評価してあげてくれ、と。松本さんが家康を演じてくださり、感謝しています。

 ◇斬新な解釈への反論「予想していました」

 --執筆で大変だったことをお聞かせください。

 今作は時代考証の先生方の意見を最大限に取り入れ、なるべく最新の学説を採用することを厳守したので、“勉強の部分”がめちゃくちゃ大変でした。家康ってたくさん史料が残っていて、さらにこの数年でもまたどんどん新しい発見があったりして、勉強しなきゃいけないことが想像していた以上に多くて。放送も始まってるのに、まだ勉強しなくちゃいけないことがいっぱいあるときが、一番つらかったです。

 --史実を守ることを大切にしていたんですね。

 新しい家康像だったりと、今までと違う新しい解釈にするからには、史実は守らないと何でもありになってしまうため、史実として判明していることに関しては最大限守るっていう方針にしたんです。だから、“いつ、どこで、誰が何をしたか”という史実に関しては、考証の先生方にものすごく細かく確認していただき、できる限り守りました。もちろんドラマなので限界はありましたが。視聴者の方に通じていない部分もあったかもしれませんが、僕の中では、すごく史実を守ったドラマなんです。

 --「築山殿事件」が斬新な解釈だと話題になりましたが。

 そうですね(笑い)。ただ史実は変えないと決めていました。今主流となっているのは“瀬名と信康が密かに織田家と手を切り、武田家と通じて新しい軍事同盟を作ろうとしていた”ということ。ただ、瀬名や信康が何を思ってそうしたのかとか、何を目指してそうしたのかという部分だけを僕なりの解釈にしました。

 --その解釈を受け入れ難いという視聴者もいたと思います。

 反論もたくさんあるだろうっていうことは予想していました。でも僕は、瀬名が悪女だとか、会ったこともない人を断じる歴史観がすごく嫌いですし、“歴史っていろいろな解釈ができるから面白い”というのを提示したく、反論も覚悟の上で描きました。歴史の解釈の面白さみたいなことを感じて、歴史好きの人が増えてくればいいなとも考えていました。

 --執筆で楽しかったことはありましたか。

 史実以外の想像の部分を、イメージを膨らませて描くことは面白かったです。たとえば金ヶ崎の戦いの小豆の話とか。

 --小豆を入れた袋を人に見立てるというのは、古沢さんのアレンジだったそうですね。

 はい。信長にしても、ただ小豆の入った袋が届いてもピンチだとは分からないだろうと(笑い)。あの逸話は後世の創作らしいですが、だったら現代の僕が“さらに後世の創作”をしてもいいんじゃないかと思い、あの形になりました。

 --執筆を終えた現在のご心境を。また大河ドラマを描きたいですか。

 2年ぐらい慌ただしかったので、今ゆっくりと人間らしい生活を取り戻しつつあります(笑い)。また大河ドラマを描きたいか、ということは今はあまり考えていないですが、自分としてはほんと学びの多かった仕事だと思っていて。もしいつかもう1度チャンスをいただけたなら、次はもっともっと上手にやろうっていう、 そういう気持ちだけはあります。ただ、「どうする家康」は今の僕しか書けなかった作品だと思うので、力は出し切ったと思っていますし、思い残すこともありません。

写真を見る全 5 枚

テレビ 最新記事