NHK連続テレビ小説(朝ドラ)「べっぴんさん」に、芳根京子さん演じるヒロイン・坂東すみれの夫・紀夫役で出演中の永山絢斗さん。物語はここから娘のさくらが成長し、やがて反抗期を迎えるが、永山さんも40代、さらに60代へと“年齢を重ねた父親役”という未体験ゾーンへと突入する。巨匠・小津安二郎監督の作品と小津映画で伝統的な日本の父親像を体現してきた“憧れの人”笠智衆(りゅう・ちしゅう)さんの演技から「いろいろなエッセンスをもらいながら(演じている)」と明かす永山さんに、初の父親役とドラマへの思いを聞いた。
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「べっぴんさん」は、95作目の朝ドラ。神戸市に本社を置く子供服のメーカー「ファミリア」の創業者の一人、坂野惇子さんをモデルにしたヒロイン・すみれの物語。戦後、焼け跡となった神戸で、娘や女性のために、子供服作りにまい進するヒロインと家族の姿が描かれている。
永山さん演じる紀夫は、無口で何を考えているのか分からないところもあるが、心の中ではすみれや家族を強く思っている優しい青年だ。だがここまでは、過酷な戦争体験から人間不信に陥ったり、すみれの仕事に理解を示してあげなかったり、人前に出るのが苦手な性格から、仕事がうまくいかず“引きこもり”になったりと、トラブルメーカーとしての側面ばかりがクローズアップされてきた。永山さんも紀夫に対して「ずっと今も手探りで、僕もよく分からない」と苦笑いを浮かべる。
一方で、「人って変化していくし、『こういう役です』っていうものでもないと思うんですよ」と話す永山さん。「紀夫って人物のいい部分、悪い部分、もちろんあるんですけど、ただ朝ドラっていうのは(一人の人間を演じる期間も)長いですし、それ(人としての変化)が逆にできるというか。何かの拍子に変わってしまったり、自分から変わらなくてはいけなかったり、そういう一人の人間の人生をある程度、追うことができるっていうのはやっぱり楽しいです」と語る。
物語は戦前に始まり、現在は戦後ちょうど昭和20年代の中ごろに到達。女性たちの社会進出に対して消極的な男性が今よりずっと多かった時代で、すみれとは仕事を巡ってことあるごとに衝突してきた紀夫だが、彼の感覚だけが決して特別なわけではなかった。永山さんも「『昔って、そういうものだよな』って思う半面、話には聞いてはいたけれど、僕には分からない感覚で、そのギャップを埋めていくのが面白いです」と明かす。
そんな永山さんが“ギャップを埋めていく”にあたって、参考にしたのが「べっぴんさん」と同時代を描いた家族の物語だ。「どのドラマをやる時も、勉強というか、近いテーマの昔の作品を見たりするんですけど、小津さんの映画の笠さんがすごくすてきだな、と思っていて。いろいろなエッセンスをもらいながらというのはある」といい、「小津さんの作品を見ていて、笠さんが忘れ物をして『ちょっと取ってきてくれ』って言ったら、嫌な顔一つせずに奥さんが取ってくる。今だったら、そんなことはしないよなってことができるっていう意味でも、やっぱり楽しいです」と笑う。
さらに永山さんは「最近、見て楽しかったのが、勝(新太郎)さんの『悪名』シリーズ。何がいいって、あれだけオーバーに動いて、ちっとも(演技が)うるさくない。誠実に芝居をされていて目を引くし、役に対して、あえてすきを作るというか。僕の演じる紀夫も、見た人が笑ってくれたり、突っ込んでくれるようなキャラでいられたらいいなって思いますね。あとは川島雄三さんの作品とかも、参考になります」と勉強熱心な一面を披露していた。
役を通じて“年頃の娘を持つ父親”を疑似体験している永山さんは、「自分の感覚ではないところまできていて、親になったのも初めてだし、何か“ボーナスタイム”だと思って楽しんでます」とにっこり。「でも女の子の親って大変なんだろうなって思いますね、やっていて。すごく(娘が)可愛いし」と“パパの顔”をのぞかせると、「結婚願望はあったりなかったりで、子供は見てみたい気もしますか、よく分からないですね」と笑っていた。
まだまだ撮影は続くが「役をやっている段階から振り返りたくないって感覚はありますし、自分の中で点数もつけたくはない。朝ドラってすごいスケジュールなんですけど、その中で体力を温存しているようではダメだなって思いますし、ワンシーン、ワンシーン、全部使い切る感じで、家に帰ってから『まだできるな』っていう状態ではいたくない」と力を込める永山さん。夫から父親へと、年齢とともに変化していく役どころに対して、今後どんな演技を披露してくれるのか、注目だ。
NHK連続テレビ小説「べっぴんさん」はNHK総合で毎週月~土曜の午前8時ほかで放送。
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