海に眠るダイヤモンド
最終話後編(10話)記憶は眠る
12月22日(日)放送分
俳優の長谷川博己さん主演のNHK大河ドラマ「麒麟(きりん)がくる」。放送休止前最後の回として6月7日放送された第21回「決戦!桶狭間」では、織田と今川が激突した「桶狭間の戦い」と義元(片岡愛之助さん)の最期が描かれたが、その裏であるシーンが視聴者の注目を集めた。それは信長(染谷将太さん)の出陣前、帰蝶(川口春奈さん)が、信長が“吉乃という女に産ませた”という奇妙丸(後の信忠)と初対面したシーンで、帰蝶にとって奇妙丸の存在は、まさに“寝耳に水”。戸惑いと怒り、悲しみが合わさった帰蝶の感情がそのまま宿ったかのような、川口さんの表情に胸を打たれた視聴者も多かったのではないだろうか。
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川口さん演じる帰蝶といえば、4月12日放送の第13回「帰蝶のはかりごと」を境に、女軍師的な活躍を見せ、夫の信長を“手のひらの上で踊らせてきた”イメージ。実際、信長と父・斎藤道三(本木雅弘さん)による「聖徳寺の会見」を成功に導くなど、随所で敏腕プロデューサーぶりを発揮(付いたあだ名は「帰蝶P」)。信長本人も「帰蝶の手のひらの上で踊るたわけ」というポジションを喜々として受け入れてきた。
そんな帰蝶を突然、襲った“隠し子騒動”。帰蝶と信長の間には子がなく、時代が時代とはいえ、愛する夫が勝てるかどうか分からぬ戦に出陣するという、場合によっては今生の別れになるかもしれない、そのときに、よもや愛する夫本人から、隠し子=奇妙丸の存在を告げられるとは、さすがの帰蝶も思ってもみなかったことだろう。
SNS上でも、「突然のカミングアウト!」「帰蝶様、複雑……」「帰蝶様、不憫(ふびん)」「分かっていてもツラいな~」「切ないのう……」といった声が次々と上がっていたが、ここで終わらないのも、また帰蝶。その後、光秀の前で、涙をこらえながら、奇妙丸のことを「天から降ってきた、大事な預かりもの」と気丈に振る舞い、女を上げると、桶狭間で織田の兵が義元を討ち取る頃には、一人何やら確信めいた、何とも美しい凛(りん)とした表情をのぞかせていた。
この一連のシーンでの川口さんの演技を、演出担当の一色隆司さんはどう見たのか。
まずは帰蝶が置かれた立場について、「この時代の女性は、大変だなと思います。夫が他で子供を作っていても何も言えない。だからといって、それによって『離婚します』とも絶対にならない。嫌いになる人もいるのでしょうが、帰蝶は信長を嫌いにはなりません。それも自分の運命と受け入れるのです」と説明する一色さん。
「初めて奇妙丸と対面するシーンでは、川口さんにその戸惑いと怒り、その下から湧き出る悲しみをシームレスに表現することを意識してもらいました」と話していて、「女性の目から見たら許せない部分もあってよいわけで、それもきちんと感じながら、でも、信長に対する思いがその場で冷めることもなく演じてほしいと話しました。とても複雑な思いを巧みに演じてくださったと思いますし、帰蝶を確実に自分のものにしていらっしゃると思います」と感心する。
今や、作品に欠かせない存在となった帰蝶=川口さんだが、一色さんは「最初は、所作などとてもナーバスになっていましたが、周りの役者さんから声を掛けていただいたり、いろいろな人とコミュニケーションを取りながら帰蝶をつかんでくださいました」と感謝。最後に、「(帰蝶の)お姫様であるがゆえに翻弄(ほんろう)される人生を受け入れつつも、自分の在り方に信念をもって生きていこうとする姿は、川口さんの人見知りだけど負けず嫌いな部分と重なる部分も多いように感じます。リハーサルで出した芝居上の宿題などは、本番の時までにこちらの想像をはるかに超えるレベルでこなして魅力的な帰蝶を作ってくださっています。ものすごい努力家であると同時に人の心をいろいろなレベルで表現できる豊かな感性をお持ちなんだと思います」と印象を語ってみせた。
時期は未定ではあるが、放送再開後も帰蝶と川口さんの活躍には目が離せなくなりそうだ。
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