大奥:なぜ今ドラマ化 コロナ禍で膨らむ「日常の緊張を忘れたい」

ドラマ10「大奥」の一場面(C)NHK
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ドラマ10「大奥」の一場面(C)NHK

 よしながふみさんの人気マンガを実写化した「ドラマ10大奥』」(NHK総合、火曜午後10時)。企画したのは、連続テレビ小説(朝ドラ)「ごちそうさん」や大河ドラマ「おんな城主直虎」などを手がけたNHKの岡本幸江プロデューサーだ。これまで民放ドラマや映画になった作品を、なぜ今、NHKのドラマにしようと思ったのか。胸の内を聞いた。

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 ドラマは、若い男性のみに感染する奇病の影響で、男性の人口が女性の4分の1に激減した江戸時代が舞台。将軍職は女性へと引き継がれ「美男3000人」と称される男の世界になった大奥が描かれる。「3代将軍・徳川家光×万里小路有功編」「5代将軍・徳川綱吉×右衛門佐編」「8代将軍・徳川吉宗×水野祐之進編」と続く。「よしなが大奥」では初めて、大政奉還までの物語が映像化される。

 ◇16年前にもドラマ化案

 岡本さんは16年前、「大奥」のドラマ化を企画したことがある。理由は、NHKという放送局の置かれた社会的事情に負うところが大きい。

 「公共放送として、高齢者の方だけでなく、幅広く若い方にも視聴していただくことが大事という課題がありました。そのため、どんなドラマが求められているのか、自分自身もどういったドラマが見たいのか、いろんな議論をしました」。その議論の中で岡本さんが熱弁をふるい番組化を提案したのが、よしながさんの「大奥」だった。

 「当時はまだ連載途中でしたが、マンガの中で描かれている人と人との関わりに心を揺さぶられ、深く刺さる物語だと思いました。『美男3000人』が織りなす“純愛”の世界を映像化したくて、一時は『やってみようか』という話にもなりました。しかし、他局でドラマ化の話が進んでいたため、かなうことはありませんでした」と、一度は諦めた。

 しかし、岡本さんが3年前にNHK「ドラマ10」の編集長となり、よしなが大奥の原作が2020年12月に完結したことで「最初から最後までドラマ化させていただきたいと強く思うようになりました」

 時代も平成から令和へと移り、コロナ禍が世の中を覆った。怖い病の大流行と社会の大混乱が続いたことで、奇病をストーリー展開の「触媒」にするかのような、よしなが大奥と「時代」がシンクロする。その結果、ドラマ化の機が熟した。

 「新型コロナウイルスの影響は大きかったです。みなさん、緊張感がある中で生活をしていて、ドラマを見るときくらい『日常の緊張を忘れられないだろうか』と考えた時に、大胆な構造で共感を得られるものとして、大奥で描かれている感情は現代に通じる普遍的なものがある」と話す。

 いまニュースにならない日はない「女性の活躍」問題も、ドラマの底流にあるのでは。

 「ジェンダー論もよく言われることですが、男だからとか女だからではなく、男も女もつらい、悲しい、人間ってなんと不自由なんだろう……と。原作を読んでそう感じましたし、性別は関係なく人間はつらい思いを抱えながら生きていることを思いながら作っています」

 今作は「ごちそうさん」「おんな城主 直虎」などで岡本さんとタッグを組んだ森下佳子さんが脚本を担当している。岡本さんは「背中を押してくださったのは森下さん」と明かした。

 「どういった作品が求められているか森下さんに聞いたことがありました。すると『今だったら大奥が見たいかな』とおっしゃって。それもあって『大奥だ!』となりました」

 ◇積極的なSNS発信「16年前ではできなかった」

 第1回(1月10日放送)は、「NHKプラス」の視聴数(同時または見逃し配信)が、大河ドラマと連続テレビ小説を除く全ドラマの中で最多を記録した。好スタートに岡本さんは「ありがたいことです。光栄です」と視聴者に感謝する。でも、不安がなかったわけではない。

 「実写ではマンガの絵柄通りにはできませんし、視聴者の方からどう受け止められるかドキドキしていました。ですが、冨永愛さん(徳川吉宗役)の暴れん坊将軍的なかっこよさ、中島裕翔さん(水野祐之進役)のすがすがしさや若々しさは、高く評価していただけたと思います。キャスティングでもみなさん非常に興味を抱いていただきましたし、すてきな出会いをさせていただきました」。確かな手応えを感じた。

 また、ドラマの公式ツイッターで発信しているメーキング映像や小道具の紹介、オフショットの掲載など「16年前ではできなかったこと」もドラマの支持につながっているとみる。

 「若い世代のパワーで、SNSで積極的に発信してもらっています。現場の魅力を伝える方法も多様化していますし、俳優たちの役への向き合い方やドラマの作り方も楽しんでいただきたいと考えています。制作側の思いが伝えられていると感じていますし、そのことでみなさんにさらにドラマを楽しんでいただきたいです」と期待する。

 今作は、徳川家光の時代から大政奉還(1867年)まで、200年以上の時代を描く。1年間にわたって放送する大河ドラマでもなし得ない長い歳月をドラマ化する。そこに、どんな意味を見いだしているのか。

 「脈々と時代が続いていることを描けると感じています。徳川家康だったり織田信長だったり、誰かの人生にスポットを当てるのではなく、志をつなぐ。そういう枠組みになっていると思います。人が変わろうとも、どういったことが次の世代に受け継がれていくのか、それが醍醐味(だいごみ)だと思います。大切に描いていきたいです」

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