海に眠るダイヤモンド
最終話前編(9話) あの夜
12月22日(日)放送分
俳優の吉沢亮さん主演のNHK大河ドラマ「青天を衝(つ)け」(総合、日曜午後8時ほか)。放送は全41回となり、12月26日に最終回を迎えることが7月21日に発表された。回数的にはすでに折り返し地点を過ぎている同作だが、“日本資本主義の父”と称される主人公・渋沢栄一(吉沢さん)の活躍はまだまだこれからと言える。一方で、ここまでのMVPを一人挙げるとするなら、徳川慶喜を演じている草なぎ剛さんをおいて他にはいないだろう。直近の第23回「篤太夫と最後の将軍」でも、慶喜が政権を朝廷に返上する「大政奉還」が描かれ、大きな見せ場となった。
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第23回では、フランスからの借款は消滅したが、篤太夫(吉沢さん)が当面の資金繰りに奔走し、昭武(板垣李光人さん)は留学を続けていた。家庭教師のヴィレットの教えに従い、篤太夫たちは髷(まげ)を落とし、刀も外し、洋服を着ることに。同じころ、日本では西郷(博多華丸さん)が軍備を整え、岩倉(山内圭哉さん)と大久保(石丸幹二さん)が王政復古への動きを進めるが、慶喜は先手を打って政権を帝(みかど)に返上してしまう……と展開した。
同回では、側近の一人、原市之進(尾上寛之さん)を暗殺という形で失ってしまう慶喜。平岡円四郎(堤真一さん)のときと同じく、実行犯が身内であったこともあり、大きなショックを受け、「なぜだ……。なぜ私の大事なものを次々と奪う」と嘆く。
また慶喜は、西郷ら薩摩が挙兵する前に政権を朝廷に返上することを一人で決断。幕府や朝廷、薩摩ら倒幕派のパワーバランスを見越しての“最善策”とはいえ、「こういうことを一人で考えねばならぬとはのう」とつぶやく慶喜のそばには円四郎も市之進もおらず、篤太夫も遠く海の向こうとあって、孤独を深める様子が印象的だった。
そして迎えた慶応3(1867)年10月12日、場所は二条城。慶喜は家臣たちを前に「政権を帝に返上する」と切り出すと、「昔、帝の治世の綱が緩むと、藤原氏が権力を執り、保元・平治の乱を経て、政は武家に移り、やがて御神君が天守様に特に目をかけていただき264年、征夷大将軍の職を子孫が受け継ぎ、私がその職をいただいた。しかしながら、今日の形勢に至ったのは、私の徳の薄さがゆえんにて、恥じ入るばかりだ。ましてや外国との交際が日に日に盛んになる昨今、日本ももはや政権を一つにまとめねば、国家を治め、守ることはできぬ。それゆえ……政権を朝廷にお返しし、広く天下公平な議論を尽くして、天守様の決断を仰ぎ、同心協力してこの国を護(まも)りたい。さすれば日本は……さすれば日本は必ずや海外万国と並び立つことができよう」と思いを伝える。
集められた家臣のすすり泣く声を耳にしながらも、慶喜は話を続け、「御神君以来の大業を一朝にして廃するは、ご先霊に対して恐れ入りたる次第ながら、天下を治め、天守様の心を安んじ奉るは、すなわち御神君の偉業を引き継ぐことである。私がなしえることでこれに過ぎるものはない」とし、「しかしながら、なお意見があるものは、いささかも遠慮なく言上せよ」と締めくくった。
慶喜を見守っていた“徳川幕府の祖”家康(北大路欣也さん)も思わず言葉をのみ込んでしまった孤独な決断。最後の将軍として草なぎさんが淡々と、よどみなく話す姿は実に心に響くものがあり、感動的ですらあった。250年以上続いた徳川幕府の終焉(しゅうえん)にふさわしい長ぜりふと名演だったのではないだろうか。
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