西郷どん:鹿児島弁指導の舞台裏 「生きた言葉」に悪戦苦闘

NHKの大河ドラマ「西郷どん」の方言指導を担当している迫田孝也さん(左)と田上晃吉さん (C)NHK
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NHKの大河ドラマ「西郷どん」の方言指導を担当している迫田孝也さん(左)と田上晃吉さん (C)NHK

 俳優の鈴木亮平さん主演の2018年のNHKの大河ドラマ「西郷(せご)どん」が7日、スタートした。ドラマの内容と共に話題となっているのが、登場人物たちが話す「薩摩ことば(鹿児島弁)」だ。ネットなどでは「難しい」「分かりにくい」との声も上がっているが、裏を返せば、それだけしゃべっている言葉が「本物」に近いといえる。ドラマの方言指導を担当し、現場で「生きた言葉」作りに悪戦苦闘している俳優の迫田孝也さんと田上晃吉さんに、指導の舞台裏と薩摩ことばへの思いを聞いた。

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 ◇反響は「予想の範囲内」 言葉は「生き物」で作業の9割は「現場」

 第1回と第2回の放送を終え、迫田さんは「自分が準備をしてきた中では、これくらいの反響は予想の範囲内。インパクトはあったのかなって思うし、これだけ反響があるっていうのは、ある意味では成功ではあったのかな」と考えを明かす。

 一方で「1、2話と結構、前に撮っているので、オンエア(放送)を見ていて『こういう言い方にすればよかったな』っていう反省点はありますね。周りの意見どうこうというより、自分のやっていることへの反省点」と言い、田上さんも「僕も“前のめりすぎたな”って、もっと客観的に(ドラマを)見る視点が必要だったのかなっていうのもありますし、そういった観点からいくと、これから工夫の余地はあると思います」と反省を口にする。

 方言指導として一番、難しい点は薩摩ことばを「一定のレベルにそろえる」ということ。時代はもちろん、同じ鹿児島県内でも薩摩ことばに地域差があるのが大きな理由で、「僕と田上さんでも使っている鹿児島弁が違うので。作業はまずそこから」と苦労を明かす。

 とはいえ、言葉にとらわれすぎて物語やキャストの熱量を失っては元も子もない。迫田さんによると作業の9割は「キャスト本人たちがどう言いたいかっていうのを優先し、その場で言い方を変えて、イントネーションをつけていくこと」で、「言葉も“生き物”ですから、現場が第一といいますか、どうやったら生きた言葉になるか」と悪戦苦闘の日々を送っている。田上さんも「その場で生まれていく言葉が多いので、シチュエーションや役柄に合わせて、適切な言葉を選ぶのは大切な作業」と話した。

 ◇言葉のマイルドさは5割弱? 正解か不正解かで判断するのではなく…

 方言指導の2人は、ドラマ内での言葉のマイルドさを「昔の言葉からしたら、今ボクたちがしゃべっている鹿児島弁は2割くらいでしょうから、『西郷どん』で使っているのは5割はいかないくらい」と分析する。

 田上さんは「言葉によっても変わってくるんですけど、“聞こえ”として聞き取れない鹿児島弁っていうのはほとんど使っていない」と言い、迫田さんは「僕は厳密に(正しい言葉に)こだわらなくてもいいと思いますし、正解か不正解かで判断するのではなく、アリかナシかでちょっとでもアリなら、それでいいっていう判断にはなってきている」とも明かす。

 その上で迫田さんは、「シーンが成立していれば、言葉は二の次といいますか。明らかに間違っていなければ、僕はオーケーを出すんですよね。視聴者にはあまり言葉に引っ張られてはほしくないんですけど、聞き慣れない言葉ですから、引っ張られてしまう気持ちも分かる。だからこれは“慣れ”しかないのかなって。キャストの皆さんのお芝居は間違いなくエネルギッシュで、人を引きつけるものですから、そのうちそうなって(慣れて)くれるんじゃないのかっていうのが本音」と方言指導としての思いを率直に語る。

 田上さんも「その通りで、いろいろな言葉にとらわれてほしくはない」と迫田さんの言葉に同意しつつ、「最初のうちに理解してもらえると今後、分かりやすくなるんだろうなっていうのがあって。『おい(自分、私)』っていうのと『わい(相手、あなた)』っていうのが誰に対してなのかが一番の入り口になってくると思う。『わい』っていうと自分のことっていうニュアンスが全国的に広がっているので、そこの違いを頭の片隅に置いておくとより分かりやすいのかな」と薩摩ことばを理解するちょっとしたヒントを教えてくれた。

 「西郷どん」は、明治維新から150年となる2018年に放送される57作目の大河ドラマ。薩摩の貧しい下級武士の家に生まれた西郷隆盛(吉之助)の愚直な姿に、カリスマ藩主・島津斉彬が目を留め、西郷は斉彬の密命を担い、江戸へ京都へと奔走する。勝海舟、坂本龍馬ら盟友と出会い、革命家へと覚醒し、やがて明治維新を成し遂げていく……という内容。NHK総合で毎週日曜午後8時ほかで放送される。

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