放課後カルテ
第10話(最終話) これからも健康でいてほしい
12月21日(土)放送分
福原遥さん主演のNHKの連続テレビ小説(朝ドラ)「舞いあがれ!」(総合、月~土曜午前8時ほか)。NHK大阪放送局(BK)で制作する朝ドラの常連で、今作で朝ドラ10作目の出演となる蟷螂襲(とうろう・しゅう)さんは、福原さん演じる主人公・岩倉舞が生まれ育った東大阪の町工場の社長・曽根役で出演している。これまでの9作の朝ドラでも、出番は多くないながらも強いインパクトを残してきた蟷螂さん。変わった芸名の由来、芝居のルーツや、地元での演劇活動など、本人のコメントとともに蟷螂さんの横顔を紹介する。
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蟷螂さんは1958年10月21日生まれ、兵庫県尼崎市出身の64歳。1979年、関西有数のアングラ劇団「劇団犯罪友の会」で役者を始めた。最初の芸名は「襲」一文字だったが、それは山本有三の小説「波」に出てくるファム・ファタール(運命の女性)「襲子(つぎこ)」から取ったという。
「この小説を原作にしたドラマを見た時に、襲子さんが宿帳に(偽名で)『龍子』って書いたんです。なんでそんな名前にしたのか?と聞かれたら『裸になったら龍になる』と。つまり『襲』の下の『衣』を取ったら『龍』じゃないですか。それが気に入ったんです」と由来を語る。
その後、「やっぱり名字もほしくなった」ということで、「蟷螂」と付けた。この姓は、自分の非力を顧みずに、強敵に歯向かうさまを示す「蟷螂の斧」という言葉から取ったという。あまり良い意味で使われない言葉をあえて使ったのには、一つの強い思いがあった。
「芝居を始めてはみたものの、右も左も分からなくて、その先の見通しがどれだけあるかも分からない。そんな状況の中でも、芝居を続けていくに当たっての、覚悟を決めるつもりで、そんな名前にしました。いかついけど、いっぺん覚えていただくと、覚えられやすい名前なんですね。ただ『読めるけど書けない』って、よく言われます」と笑う。
30代を迎える直前、蟷螂さんは精神的な疲れから、失語症に近い状態になったという。役者をやめることも考えたというが、作家・演出家・俳優のわかぎゑふさんに誘われて、作家の中島らもさんが主宰していた「笑殺軍団リリパットアーミー」に入団。これまでやってきた芝居とは、まったく毛色の異なる世界に飛び込んだことが、大きなターニングポイントになった。
「そこは落語家とかマンガ家とかいろんな人がいて、すごくにぎやかで楽しい場所でした。最初は稽古(けいこ)場でジッとしているような暗いやつやったんですけど、やっていくうちにどんどん気持ちが軽くなって、言葉や人に対する気持ちのあふれ方が、徐々に戻ってきました。『もともと好きで始めた芝居やったやろ?』というところに帰ることができて、今もリハビリのように芝居を続けていられるのは、あそこにいたからですね」と感謝を語る。
1992年ごろには、関西ローカルのテレビドラマ「新・部長刑事 アーバンポリス24」(ABCテレビ)に、刑事の三原文治役でレギュラー出演し、注目される存在になった。「あれは6年ぐらい出演したんですけど、ドラマの現場の基本みたいなものを学ぶ修業になりました。そこからはどんな現場に行っても、なんとかなるかな?みたいな感じにはなりましたね」と、現在の朝ドラ出演の基盤になったことを明かす。
そんな蟷螂さんは、1994年から、自ら脚本・演出を務める劇団「PM/飛ぶ教室」を主宰。「舞いあがれ!」の中で、蟷螂さん演じる曽根の飲み仲間の一人、長井役で出演している、や乃えいじさんも劇団員だ。劇団の詩的かつ人情にあふれ、見る者を思わず落涙させる……蟷螂さんの言葉を借りれば「すごくめめしい(笑い)」人間ドラマを描いた舞台は、大阪の戯曲賞「OMS戯曲賞」の大賞を受賞するほど、演劇界では高く評価されている。
「妙な言い方かもしれないですけど、人と人との『お別れ』が好きなんです。生き別れもあれば死に別れもあり、別れた覚えがないお別れもあるかもしれない。そういうお別れに際しての、人の心の揺れ方……別れの悲しさや、別れた後に相手の無事を願う気持ち、逆に『上手にお別れなんかできへんわ!』というひっくり返し方。そういうところに興味があるんです」と、その世界観を表現する。
「PM/飛ぶ教室」の舞台は、「本番よりも、稽古の方がもっと涙、涙です。自分でも、ええ加減にせえと思うんですけどね」と照れ笑い。実際に舞台を観劇すると、客席だけでなく、蟷螂さんも含めた舞台上の俳優たちも全員泣いているという、なかなか他にはない状況に圧倒されるかもしれない。
ちなみに蟷螂さんは、「マッサン」(2014年)から朝ドラに隔年で出演している。とすると、笠置シヅ子さんをモデルにした、ヒロインを趣里さんが演じる2023年のNHK大阪制作の朝ドラ「ブギウギ」の出演はジンクス的に難しいか……。
「僕もそれが気になって、事務所に『連続で出るのは難しいんですか?』と聞いてみたんですが、『そんなことはない』と言われたんです。笠置シヅ子さんのお話だというから、ちょっと出てみたいですよね」とジンクスを破って、2年連続出演への意欲をチラリと見せていた。
(取材・文:吉永美和子)
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